システム連携、連携システム、データ連携、情報連携、ニュアンス別の英訳

(2022-02-10 タイトル変更)

Image by Gerd Altmann from Pixabay

昨年のブログ記事では「連携」という言葉を英語にする時に注意が必要であることを書きました。特に、本来日本語では自動詞である「連携」を他動詞のように使っている文を英訳する際に、伝わりにくい英語になってしまう例をご紹介しました。

youneedaken.hatenablog.com

ただ、IT文書で「連携」という言葉は、「システム」、「データ」、「情報」などいくつかの言葉と組み合わせて良く使われます。それらの言葉を私自身が英語にする時にどのように訳しているかを、ニュアンス別にご紹介したいと思います。

システム連携

ニュアンス:複数のシステムがお互いに連絡をとりあって、協力していること

よくプレゼンテーション資料でこのように表現されている、システム同士が繋がって協調動作している様は "integrated systems" (形容詞 + 名詞)、システムをこのような状態にすることは "integrate systems" (動詞 + 名詞) と訳しています。名詞的に書きたい場合は "systems integration" としています。複数のシステムが連携するので systems と複数形にします。

Systems Integration

例文

販売の業務プロセスは、システム連携で実現されている。
The sales business process is implemented by integrated systems.

連携システム

ニュアンス:システムを連携させるための基盤として使われるシステム

メッセージキューイング (MQ) や Enterprise Service Bus (ESB) などのようにシステム同士を繋ぐ役割を持つシステムを、連携システムや連携基盤と呼ぶことがあります。そのような呼び方を英訳する際には、アプリケーションを統合するシステムまたは基盤の意味で、"application integration system(s)" もしくは "application integration platform(s)" と訳しています。

なお、システムとシステムの間にあって中継するシステムであるという点に着目する場合は、"intermediate system(s)" と訳しています。

Application Integration Systems/Platforms

例文

連携システムの技術としてメッセージキューイングを選定した。
Message Queueing was chosen as the technology for the application integration system.

例文

連携システムがメッセージの書式を変換する。
An intermediate system will transform the message format.

データ連携①

ニュアンス:データを活用するために分散しているデータを繋ぐ

異なるソースのデータを何らかの目的のために組み合わせるという意味のデータ連携は、"data integration" または "data federation" と訳しています。ただし、"data federation" は文脈によっては物理的に別々のデータベースを仮想的にひとつのデータベースのように見せる技術を指す場合もあるため、そのような特別な意味を持たせたくない場合は、"data integration" を使う方が良いです。

What is a Data Federation? | TIBCO Software
Data Federation | Denodo

Data Integration

例文

顧客のDX戦略のためにはデータ連携が肝要です。
Data integration will be critical for the client's Digital Transformation strategy.

Data Federation

例文

データ連携によってグループ会社共通の従業員体験を提供する。
Provide a unified employee experience across group companies by data federation.

データ連携②

ニュアンス:ネットワーク経由でデータを転送する

昨年のブログ記事でも例として取り上げましたが、データを渡すという意味におけるデータ連携を名詞的に書く場合は "data transfer"、"data transport"、"data transmission" などと訳しています。動詞的に書く場合は "transfer data"、"transport data"、"transmit data" となります。使い分け方として、transfer は File Transfer Protocol (FTP) コマンドを実行するように人間が意識するレベルでの転送、 transport や transmission/transmit は、OSI参照モデルの第4層トランスポート層より下の層のような低層の通信での転送を表すのに使っています。

Data Transfer, Data Transport, Data Transmission

例文

勘定系システムからデータウェアハウスへのデータ連携は 2:00-4:00 の間に行う。
The data transfer from the core banking system to the data warehouse is done between 2:00-4:00.

情報連携①

ニュアンス:ネットワーク経由でデータを転送する

私自身はあまりこの意味で情報連携という言葉が使われているのを見たことはないのですが、官公庁ではデータ連携②と似たような意味で使うようです。このニュアンスであれば、データ連携②と同じように "data transfer" と訳すと伝わりやすいと思います。

情報連携
情報連携とは、行政機関同士が専用のネットワークシステムを用いて、マイナンバーから生成された符号をもとに、行政手続に必要な情報をやり取りすることです。
これにより、国民・住民の皆様が、各種行政手続での書類提出を省略することが可能となっています。
制度解説|デジタル庁

例文

行政機関同士のマイナンバーの情報連携は専用のネットワーク経由で行う。
The data transfer for Individual Number (aka My Number) between governmental agencies will be done through a dedicated network.

Image by Thomas Ulrich from Pixabay

情報連携②

ニュアンス:情報を共有する

データ連携②と同様にこちらもIT業界の方言だと思いますが、このニュアンスを英語で伝えるためには "information sharing" と訳しています。動詞的に書く場合は "share information" です。

例文

会議に出席していないプロジェクトメンバーに PMO から議事録を送付することで情報連携する。
PMO will share information by sending the meeting minutes to the project members that were not in the meeting.

Photo by Andrea Piacquadio from Pexels

ちなみに、私の他にもこの「連携」の使い方に違和感を感じている人はいるようです。

「共有」=「連携」=「展開」
情報とか資料をあげる/もらうことを、ビジネスマンは「連携」と言ったり「共有」と言ったり「展開」と言ったりする。
「共有」はまぁ自然だと思うけど、「連携」とか「展開」とか言いたがる人もけっこういて、変な日本語だなぁといつも違和感を覚える。 「それでは貴社内の方針が固まりましたら、我々にも連携いただけますと・・・」
「先日◯◯様よりご提示頂いた資料を、関係者の皆様に展開いたします」(と言ってメールに何か添付されてばらまかれる)
みたいな。IT企業の人がよく使っているイメージがある。
よく耳にするけど絶対ヘンだと思うビジネス用語 - The Midnight Seminar

連携の対訳

今回のブログ記事では、「システム」、「データ」、「情報」との組み合わせで使う場合の「連携」の訳語として、 "integration" 、 "federation" 、 "transfer" 、 "transport" 、 "transmission/transmit" 、 "sharing/share" を使った表現をご紹介しました。実はこれらはどれも「連携」という言葉を単体で和英辞書でひいても出てきません。

それぞれのニュアンス別の訳し方と例文がみなさまの English Writing のお役に立てれば幸いです。