デグレを degrade と訳しても通じない

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デグレード」は和風英語

ソフトウェアを更新した際に、新たに埋め込まれたバグなどによってそれまで正常に動作していた機能に不具合が生じたりすることを、日本のIT業界ではよく「デグレした」という言い方をします。「(品質などが)低下する」意味の "degrade" (デグレード) に由来しています。

日本語で書かれた情報工学の論文を調べてみると、ソフトウェアの文脈での「デグレード」は 1970年代頃には登場しており、IT業界では早い段階から使われてきた言葉のようです。

大島裕, ソフトウェア・エンジニアリング:ソフトウエアの信頼性, 情報処理, 1975.

菅野文友, 設計べからず集-13-コンピュータ・ソフトウエア作成におけるデグレード防止について(設計のページ), 品質管理 29 (11), pp.1406-1410, 1978.

機能が正常に動作することもひとつの品質特性のため、一見 "degrade" と言っても良さそうに思えますが、英語圏の人が "degrade" を見ると、応答時間の遅延のような非機能の品質低下を想像します。また、ソフトウェアの変更のように何かのきっかけで品質が低下するという意味もありません。

そのため、「デグレ」を "degrade" と訳しても、日本語と同じ意味では通じません。

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英語では「regression (リグレッション)」

では、英語圏で同じことを何と表現するかというと、"regression" と言います。日本語では「回帰」とも訳されますが、「以前の、あまり進歩していない、あるいは悪化した状態、状況、振る舞い方に戻ること」という意味になります。

日本のIT業界だと、「リグレッションテスト」や「(リグレッションテストを行うための) リグレッション環境」のように、テストの文脈で使われることが多いようです。

International Software Testing Qualifications Board (ISTQB) や Japan Software Testing Qualifications Board (JSTQB) では、ソフトウェアの文脈における regression / リグレッションを以下のように定義しています。

Regression testing: It is possible that a change made in one part of the code, whether a fix or another type of change, may accidentally affect the behavior of other parts of the code, whether within the same component, in other components of the same system, or even in other systems. Changes may include changes to the environment, such as a new version of an operating system or database management system. Such unintended side-effects are called regressions. Regression testing involves running tests to detect such unintended side-effects.
International Software Testing Qualifications Board, Certified Tester Foundation Level (CTFL) Syllabus Version 2018 v3.1.1

リグレッションテスト:修正および変更でコードの一部に対して行った変更が、同一コンポーネント、同一システム内の他コンポーネント、または他システムの振る舞いに意図せず影響を及ぼす場合がある。変更には、オペレーティングシステムやデータベース管理システムの新しいバー ジョンなど、環境の変更も含まれる。そのような意図しない副作用をリグレッションと呼ぶ。リ グレッションテストでは、テストを実行して、そのような意図しない副作用を検出する。
International Software Testing Qualifications Board, テスト技術者資格制度 Foundation Level シラバス Version 2018V3.1.J03

デグレード」は日本では広く通用するだけに注意が必要

デグレード」は日本のIT業界では英語圏における「regression (リグレッション)」の同義語として広く通用する言葉になっており、以下のようなソフトウェアテストやソフトウェア品質の専門家による記事でも、英語圏では "regression" の言葉を使うという但し書きをしつつ、あえて「デグレード」を使っています。

デグレ(デグレード)とは|デグレのリスクや原因、対策 - SHIFT ASIA -ソフトウェア品質保証のプロフェッショナル-

ソフトウェア開発者を悩ませる「デグレード(デグレ)」とは?原因と対策方法【テスト技法・工程 】| Qbook

しかし、英語でIT文書を書く際には、"degrade" は通じないため、"regression" を使うようにしましょう。

海外エンジニアがチャットやコメントでよく使う略語

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日本と海外のエンジニアに見る略語の使い方の違い

日本の IT業界では、プレゼン、リスケ、スキトラ、ステコミなど、カタカナ略語がよく使われますが、英語圏でも省略形は使われます。ただし、日本語の省略形は単語を短くすることが多いのに対して、英語ではフレーズの各単語の頭文字で表す頭字語がよく使われます。

youneedaken.hatenablog.com

youneedaken.hatenablog.com

今回は、Slack や Teams などのチャット、Pull Request (PR)のコメントなどで、海外のエンジニアがよく使う略語をご紹介します。

チャットやコメントで使われる略語

AFAIK: as far as I know

意味: 私の知る限りでは、私の知っている範囲では

自分では正しいと信じているものの 100% の確信がない時に、文章の先頭か末尾に付加して使います。万が一間違っている情報が正しい情報として伝わらないように予防線を張っているところがエンジニアらしいですね。関西弁で言うところの「知らんけど」です。

  • AFAIK, there are no changes to the plan. (私の知る限りでは、計画に変更はありません。)
  • Project end is next May 31, AFAIK. (私の知る限りでは、プロジェクトの終わりは5月31日です。)

aka: also known as

意味: ~としても知られている、別名~

"(あまり知られていない)正式名または本名 aka (よく知られている)別名" の形式で使います。

  • Amazon Elastic Compute Cloud aka EC2

ASAP: as soon as possible

意味: できるだけ早く

IT現場以外でも英語がよく使われる外資系企業などでは昔からよく使われてきた略語です。やや命令口調のニュアンスもあるため、社外の人や上司などに対しては使わない方が良い表現です。

  • Please review and approve the PR, ASAP. (大至急、PR のレビューと承認をお願いします。)

brb: be right back

意味: すぐ戻ります

"I'll be right back." の省略形 "be right back." をさらに頭字語にしたものです。オンラインミーティングを中座する時に使います。たぶんトイレに行ってます。

BTW: by the way

意味: ところで、ちなみに、なお

話題を変えるときに使います。

  • BTW, I wanted to thank you for your help last week. (ところで、先週は大変お世話になりました。)

FYI: for your information

意味: ご参考までに、参考情報として、ちなみに

こちらも外資系企業などでは一般的に使われてきた略語です。チャットが普及する以前もメールの件名や、メールを転送する時に書き足すような使われ方をしてきました。

  • FYI, the company is implementing a new expense reimbursement process starting next month. (参考までに、同社は来月から新しい経費精算プロセスを導入します。)

IMO: in my opinion / IMHO: in my humble opinion

意味(IMO): 私の考えでは、思いますに、私見では
意味 (IMHO): 私に言わせていただければ、私のつたない意見としては、僭越ながら申し上げると

個人的な意見や見解を述べる際に使います。

謙虚や謙遜の意味の humble が加わると、さらにへりくだった言い方になります。

  • IMO, the team's performance exceeded expectations. (私の考えでは、チームのパフォーマンスは期待以上だった。)
  • IMHO, being open to different perspectives fosters a more inclusive environment. (私に言わせていただければ、異なる視点に対してオープンであることは、よりインクルーシブな環境を醸成すると考えています。)

LGTM: looks good to me

意味: 私には良く見える、いい感じ

PR のレビューなどで使われます。2000年代に Google で使われ始めたと言われています。上位者による承認というよりは、同僚によるピアレビューのニュアンスがあります。

一時期、Qitta の「いいね」機能としても採用されていたため、日本のエンジニアにも知られた略語かと思います。なお、現在では「LGTM」から「いいね」に戻っています。

Qiitaの「いいね」が「LGTM」に変わります - Qiita Blog

Qiitaの「LGTM」を「いいね」に戻します - Qiita Blog

LMK: let me know

意味: 知らせてください、教えてください、お知らせください

相手や周りの意見を求める際に使います。後述の WDYT より少し柔らかな表現です。

  • I created a draft architecture, LMK your thoughts. (アーキテクチャーをドラフトしたので、ご意見ください。)

Nit: nitpick

意味: 細かいですが、重箱の隅をつつくようですが

主にコードレビューで使われる略語です。コード全体の品質に大きな影響を及ぼすものではない、些末な問題を指摘する際にレビュアーが使います。レビューコメントの先頭に "nit: " と付けて使われることが多いです。

  • Nit: this bracket should be placed on a new line (nit: このカッコの前には改行を入れるべき)

シラミの卵 (nit) を摘み取る (pick) という意味から転じて、「あら探しをする」「重箱の隅をつつく」という意味の "nitpick" を省略した言葉です。

nit なレビューコメントはリリースするスピードを重視して、実装者の判断により無視しても良いとしている組織もありますが、nit: とつけておきながら修正しないと承認してくれないレビューアーもいます。

What is a "Nit" in a code review?

The Standard of Code Review | eng-practices

ntd: need to drop

意味: 抜けます、落ちます

次の予定などがあって、自分だけオンラインミーティングを抜けなければいけないような時に使います。

TBD: to be decided, to be determined

意味: 将来決定する、未定

未定、未決定、未確定の事柄を示す際に使います。チャットやコメントだけでなく、文書でもよく使われます。

  • The release date of the product is TBD. (プロダクトのリリース日は未定です。)

TBH: to be honest

意味: 正直に言うと、率直に言うと、はっきり言って、ぶっちゃけ

率直な考えを伝える時に使います。ややカジュアルなニュアンスがあるため、信頼関係のある相手に対して使います。

  • TBH, I think we should reconsider our approach. (率直に言うと、アプローチを再検討すべきだと思います。)

TL;DR: too long; didn't read

意味: 長過ぎ。読んでない。、長文うざい

長文に対して読んでいないことを皮肉を込めて伝える表現です。そこから転じて、長文の要約を示す際にも使われます。

英語圏でもインターネットスラングの域をまだ出ていない表現で、やや相手を小馬鹿にしたようなニュアンスも含むので、オフィシャルな場では使うのを避け、使う場合も信頼関係のある相手に限った方が良いです。

TTYL: talk to you later

意味: あとでまた話そう、ではまた、またね

チャットを一旦終えるような時に使います。あとで実際に話すこともあれば、単なる挨拶の場合もあります。

WDYT: what do you think

意味: どう思う?

相手や周りの意見を求める際に使います。前述の LMK より答えを求める意思が明確なニュアンスがあります。

  • WDYT about the latest technology trends? (最近の技術トレンドについてどう思いますか?)

略語を使う際の注意点

今回ご紹介した略語の内、例文のないものは単独で使われることが多いものになります。

また、頭字語は一般的に大文字で書きますが、カジュアルなチャットでは小文字のままで使われることもあります。例えば、brb や ntd とだけ打ち込んでいなくなる場面もよく見かけます。

Pager が鳴らなくて

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本番システム運用の携行品

IT業界で働き始めて20数年経ちますが、これまでのキャリアでは主にアプリケーションの新規開発や再構築に携わってきたため、システムの移行までは経験しているものの、安定して本番稼働した後のシステムの保守や運用に関わる機会はあまりありませんでした。ただ、最近になってはじめて既に本番稼働しているシステムのコードに触る仕事に携わっています。その一環として、スマートフォンに Pager アプリをインストールすることになりました。

Pager アプリとは、本番障害などシステムに緊急を要する事態が発生した際などに、担当者のスマートフォンにアラームを通知するアプリです。スマートフォンから少し離れていたり、就寝中も気付けるように、かなりけたたましい大きな音が鳴ります。

Photo by iddea photo

Pager とはポケベルのこと

Pager は、今でこそスマートフォンのアプリになっていますが、スマートフォンさらに言うと携帯電話が普及する前は、通知の受信専用の小型デバイスを指していました。外出中のビジネスパーソンと連絡をとるために使われていましたが、日本では「ポケットベル」略して「ポケベル」の通称で1990年代に若い世代を中心に流行しました。

www.soumu.go.jp

Photo by のぽぽん

動詞としての page

英語での "page" は動詞でもあり、「〔館内放送・ポケットベルなどで人を〕呼び出す、〔館内放送・ポケットベルなどで人に〕連絡する」という意味があります。日常生活では、例えばホテルのフロントで人を呼び出すような時などに使いますが、Pager デバイスやアプリを使って呼び出しをすることも "page" と言います。

The Engineering Manager will page the software engineer in case of critical system failures.
(日本語訳)
重大なシステム障害が発生した場合、エンジニアリングマネージャーがソフトウェアエンジニアに連絡します。

page の語源

「呼び出す、連絡する」という意味での動詞の "page" は、中世ヨーロッパの貴族に仕えていた小姓もしくは使者を意味する "page" または "page boy" からきています。小姓や使者を遣わして誰かにメッセージを伝えるところから動詞にもなりました。

現代では、結婚式で指輪を運ぶ役割の男の子のことも "page boy" と呼ばれます。

page | Etymology of page by etymonline

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「○○以上」は “○○+” と表現する

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「以上」は "or higher" や "or above"

皆さんの職場の中で、何らかの職務を担うのに職位や資格などを条件にしているものはありませんでしょうか?

例えば、次のような条件です。

  • 海外出張は、TOEIC 600点以上を必要とする。
  • 採用面接は、マネージャー以上が行う。

「海外出張」や「採用面接」は職務で、「TOEIC の点数」や「マネージャー」はそれぞれ資格と職位です。

資格や職位に続いている「以上」は、"or higher" や "or above" のように表現することで、次のように英訳できます。

  • TOEIC score of 600 or higher is required for overseas business trips.
  • Hiring interviews will be done by Managers or above.

Photo by Tima Miroshnichenko

"up" は和製英語

"or higher" や "or above" は英語として正しいのですが、2文字で表現できる日本語の「以上」に比べて長いので、たまに "up" という表現を耳にしたり、見かけたりすることがあります。例えば、"TOEIC 600 up" や "Manager up" のような表現です。

この "○○ up" という表現は、日本語の会話や文章の中でよく見かけるのですが、英語圏の人からはあまり聞いたことがありません。おそらく和製英語の一種ではないかと考えています。

Photo by Franco Antonio Giovanella on Unsplash

"or higher" や "or above" の省略形は "+"

英語圏では「以上」に相当する表現として、"○○+" という書き方があります。"TOEIC 600+" や "Manager+" のように書きます。スペースが限られた書式や文章を短くしたい時に、"or higher" や "or above" の代わりに "+" を使うことができます。

プラス記号は数字だけに付加できるような印象もありますが、Manager > Senior Manager > Partner > Senior Partner のように順列があるようなものであれば、"Manager or above" と同じ意味を表現することができます。

IT業界の和製英語「バージョンアップ」

Photo by Clint Patterson on Unsplash

バージョンアップは和製英語

オペレーティングシステム (OS)、ファームウェア、アプリケーションなどといったソフトウェアのバージョンを新しいバージョンに更新することを、よく「バージョンアップ」と言います。大規模なシステムのソフトウェアのバージョンを更新する場合は、それ自体がプロジェクトになることもあり、「***システム基盤OSバージョンアッププロジェクト」のようなプロジェクト名がつけられることもあります。

この「バージョンアップ」は和製英語だと言われています。

バージョンアップとは、コンピュータのソフトウェア製品などの機能や性能を改良・向上させて新しい版にすることです。英語の version は「版」のことです。up は上方向を示しますが、通常動詞と結びついて使いますので、バージョンアップは正しい表現ではありません。「新版にすること」を英語では an upgrade といいます。具体的に「最新の版にする」というなら、upgrade を動詞に使って、upgrade to the new (est) version と表します。また、従来の物を改訂・改良することをも意味しますが、その場合は改訂版 a revised version となります。
亀田尚己・青柳由紀江・J. M. クリスチャンセン, 和製英語事典, 丸善出版, 2014.

例えば、「従業員の PC をすべて年内に Windows 11 にバージョンアップする。」という日本語文は、"Upgrade all employee PCs to Windows 11 by the end of the year." という英文になります。

"Version up all employee PCs to Windows 11 by the end of the year." は、英語圏の人も意味を汲みとってくれる可能性はありますが、相当ぎこちない表現として受け取られるでしょう。

upgrade と update の違い

ソフトウェアを更新をする意味の言葉として、upgrade の他に update という言い方もあります。2つの言葉の違いを英語の記事で見てみます。

A software update, which is sometimes called a software patch, is not the same thing as a software upgrade. An update is generally an enhancement to the current version of the software or application, while an upgrade is a whole new version of it. Updates are usually free and simple to install. Often, you must pay for upgrades, and they're more complicated to install.
(日本語訳)
ソフトウェアパッチとも呼ばれるソフトウェアのアップデートは、ソフトウェアのアップグレードとは異なります。アップデートは、通常ソフトウェアやアプリケーションの現行のバージョンを強化するもので、アップグレードは全く新しいバージョンになります。アップデートは通常無料で、インストールするのも簡単です。多くの場合、アップグレードは有料で、インストールも複雑です。

The Difference Between Software Updates and Upgrades

Update is a process of enhancing certain parts of the same application or software like security updates to deal with the newly discovered vulnerabilities so patches are released and users can download the updates to make the software more secure.
Upgrade can be defined as a process of shifting to a newer version of any existing application or software. This definition is in context to the computer science field. For example, we upgrade our windows whenever any latest version comes in the market because the newer version contains certainly more features than the older one.
(日本語訳)
アップデートは、新たに発見された脆弱性に対処するためのセキュリティアップデートのように、同じアプリケーションやソフトウェアの特定の部分を強化するプロセスです。パッチがリリースされることにより、ユーザーはソフトウェアをより安全にするためのアップデートをダウンロードすることがでます。
アップグレードは、既存のアプリケーションやソフトウェアを新しいバージョンに移行するプロセスと定義できます。これは、コンピュータサイエンス分野の文脈に沿った定義です。例えば、新しいバージョンが市場に出荷される度に、私たちは Windows をアップグレードします。これは、新しいバージョンが古いバージョンよりも多くの機能を搭載しているためです。

Difference between Update and Upgrade - GeeksforGeeks

これらは、update と upgrade の違いを説明した2つの例ですが、他にも似たような説明をした記事がいくつかあります。つまり、バージョンが新しいものに変わる場合は "upgrade"、変わらない場合は "update" を使います。

そのため、バージョンが変わることを示唆している日本語の「バージョンアップ」は、"version upgrade" もしくは単に "upgrade" と表現するのが良さそうです。

無料で参照できる英語の要件定義書テンプレート

Photo by Beatriz Pérez Moya on Unsplash

要件定義書は Requirements Document か Business Requirements Document

日本語でいう要件定義書 (要求定義書) は、英語では Requirements Document や Business Requirements Document と言います。直訳すると要件定義書と業務要件定義書ですが、日本語で両者がほぼ同義的に使われることがあるのと同様に、英語でも両者が区別されることもあれば、同義的に使われることもあります。

今回は、主に海外の Webサイトで公開されている Requirement Document のテンプレートをご紹介します。

How to Write a Business Requirements Document | AltexSoft

英語の要件定義書テンプレート

TechWhirl

TechWhirl は、テクニカルライター向けのオンラインマガジンで、リンク先の記事からはソフトウェア開発やその他のITプロジェクトで使用できる Microsoft Word 形式の要件定義書テンプレートをダウンロードできます。日本企業の要件定義の標準でも見られるような項目を含む章立てになっています。

techwhirl.com

  1. Document Revisions / 改訂履歴
  2. Approvals / 承認者
  3. Introduction / 前書き
    3.1 Project Summary / プロジェクト概要
    3.1.1 Objectives / 目的
    3.1.2 Backgrounds / 背景
    3.1.2.1 Business Drivers / ビジネスドライ
    3.2 Project Scope / プロジェクトスコープ
    3.2.1 In Scope Functionality / スコープ内の機能
    3.2.2 Out of Scope Functionality / スコープ外の機能
    3.3. System Architecture / システムアーキテクチャ
    3.3.1 Assumptions / 前提
    3.3.2 Constraints / 制約
    3.3.3 Risks / リスク
    3.3.4 Issues / 課題
  4. Business Process Overview / ビジネスプロセス概要
    4.1 Current Business Process (As-Is) / 現行ビジネスプロセス (As-Is)
    4.2 Proposed Business Process (To-Be) / 将来ビジネスプロセス (To-Be)
  5. Business Requirements / 業務要件
    5.1 Functional Requirements / 機能要件
    5.2 Non-Functional Requirements / 非機能要件
  6. Appendices / 付録
    6.1 List of Acronyms / 略語一覧
    6.2 Glossary of Terms / 用語集
    6.3 Related Documents / 関連文書

Stanford University

スタンフォード大学の IT Project Management Office では、要件定義書以外にもプロジェクトのライフサイクルで必要な文書のテンプレートを Microsoft Office 形式および Google Workspace 形式で提供しています。TechWhirl と比べると、機能要件、非機能要件共に、一段詳細化した章立てになっています。

Templates | University IT

  1. Introduction / 前書き
    1.1. Purpose of the Document / 本文書の目的
    1.2. Document Conventions, Terms, and Definitions / 文書規約、用語、定義
    1.3. Intended Audience and Reading Suggestions / 想定読者と本書の読み方
    1.4. Scope / スコープ
    1.4.1. Project Scope / プロジェクトのスコープ
    1.4.2. Business Requirement Document Scope / ビジネス要件書のスコープ
    1.5. References / 参考
  2. Overall Description / 全体概要
    2.1. Project Overview / プロジェクト概要
    2.2. Product Features / プロダクトのフィーチャ
    2.3. User Classes and Characteristics / ユーザの分類と特徴
    2.4. Operating Environment / 運用環境
    2.5 Design and Implementation Constraints / 設計と実装の制約
    2.6. User Documentation / ユーザ文書
    2.7. Assumptions, Dependencies, and Risks / 前提、依存関係、リスク
  3. System Features / システムのフィーチャ
    3.1. << Name of System Feature #1 >> / <<システムのフィーチャ名 #1>>
    3.1.1. Description / 説明
    3.1.2. Stimulus/Response Sequences / 刺激応答シーケンス
    3.1.3. Functional Requirements / 機能要件
    3.1.3.1. Use Cases / ユースケース
  4. External Interface Requirements / 外部インタフェース要件
    4.1. User Interfaceユーザインタフェース
    4.2. Hardware Interfaces / ハードウェアインタフェース
    4.3. Software Interfaces / ソフトウェアインタフェース
    4.4. Communications Interfaces / 通信インターフェース
    4.5. Reporting Requirements / 帳票要件
  5. Other Nonfunctional Requirements / その他の非機能要件
    5.1. Performance Requirements / パフォーマンス要件
    5.2. Security Requirements / セキュリティ要件
    5.3. Data Requirements / データ要件
    5.4. Software Quality Attributes / ソフトウェア品質特性
  6. Other Requirements / その他の要件
  7. Campus Readiness and Training / キャンパスの準備とトレーニン
    Appendix A: Glossary / 添付A: 用語集
    Appendix B: Analysis Models / 添付B: 分析モデル
    Appendix C: Issues List / 添付C: 課題一覧
    Appendix D: Screenshots, Mock-Ups, and Live Links / 付録D: スクリーンショットモックアップ、リンク
    Appendix E: Test Scenarios / 付録E. テストシナリオ

Government of British Columbia

カナダのブリティッシュコロンビア州政府の Web サイトで参照できる要件定義書テンプレートは、要件を機能要件、データ要件、非機能要件、インタフェース要件と分けており、理解しやすい構造になっています。

Business Requirements Document (BRD) Template

  1. INTRODUCTION / 前書き
    1.1. DOCUMENT PURPOSE / 当文書の目的
    1.2. INTENDED AUDIENCE / 想定読者
    1.3. PROJECT BACKGROUND / プロジェクトの背景
    1.4. PURPOSE OF THE BUSINESS REQUIREMENTS / 業務要件の目的
    1.5. BUSINESS GOALS/OBJECTIVES TO BE ACHIEVED / ビジネス目標/達成すべき目的
    1.6. BENEFITS/RATIONALE / 効果/根拠
    1.7. STAKEHOLDERS / ステークホルダー
    1.8. DEPENDENCIES ON EXISTING SYSTEMS / 既存システムとの依存 1.9. REFERENCES / 参考
    1.10. ASSUMPTIONS / 前提
  2. REQUIREMENTS SCOPE / 要件のスコープ
    2.1. IN SCOPE / スコープに含まれること
    2.2. OUT OF SCOPE / スコープに含まれないこと
  3. FUNCTIONAL REQUIREMENTS / 機能要件
    3.1. ACTOR PROFILES SPECIFICATION / アクタープロファイル仕様
    3.2. ESSENTIAL USE CASE DIAGRAM / 主要なユースケース
    3.3. ESSENTIAL USE CASE SPECIFICATIONS / 主要なユースケース仕様
    3.4. FUNCTION HIERARCHY DIAGRAM / 機能階層図
    3.5. FUNCTION DEFINITION REPORT / 機能定義記述
    3.6. BUSINESS RULES / ビジネスルール
  4. DATA REQUIREMENTS / データ要件
    4.1. DATA ARCHITECTURE / データアーキテクチャ
    4.1.1. Domain Class Diagram / ドメインクラス図
    4.1.2. Entity Relationship Diagram / 実体関連図 (ER図)
    4.2. DATA VOLUMES / データボリューム
    4.3. DATA CONVERSION / データ変換
    4.4. DATA RETENTION AND ARCHIVING / データの保持とアーカイブ
    4.5. FOI/PRIVACY IMPLICATIONS / 情報公開/プライバシー関連
    4.6. DATA DEFINITION REPORTS / データ定義記述
    4.6.1. Domain Class Definition Report / ドメインクラス定義記述
    4.6.2. Entity Definition Report / エンティティ定義記述
  5. NON-FUNCTIONAL REQUIREMENTS / 非機能要件
    5.1. SECURITY REQUIREMENTS / セキュリティ要件
    5.1.1. Authentication / 認証
    5.1.2. Authorization and Access Controls / 認可とアクセス制御
    5.1.3. Information Security Classification and labeling / 情報セキュリティ分類とラベリング
    5.2. AVAILABILITY REQUIREMENTS / 可用性要件
    5.3. USABILITY REQUIREMENTS / ユーザビリティ要件
    5.4. SYSTEM HELP REQUIREMENTS / システムヘルプ要件
    5.5. PERFORMANCE REQUIREMENTS / パフォーマンス要件
    5.6. SCALABILITY REQUIREMENTS / スケーラビリティ要件
    5.6.1. User Scalability / ユーザスケーラビリティ
    5.6.2. Application Scalability / アプリケーションスケーラビリティ
  6. INTERFACE REQUIREMENTS / インタフェース要件
    6.1. USER INTERFACE REQUIREMENTS / ユーザインタフェース要件
    6.2. SYSTEM INTERFACE REQUIREMENTS / システムインタフェース要件
  7. BUSINESS GLOSSARY / ビジネス用語集
    APMS UPDATE / APMS更新
    REVISION LOG / 改訂履歴
    APPENDICES / 付録
    APPROVAL / 承認

ビジネスプロセスで使うべき動詞、使うべきでない動詞

Photo by Brett Jordan

(2023-08-28 更新)

英語圏ではビジネスプロセスを「動詞 + 名詞」で命名する

前回のブログ記事では、英語圏においてビジネスプロセスのアクティビティーやタスクは、「動詞 + 名詞」で命名することがベストプラクティスとされていることを紹介しました。

その理由として、アクティビティーやタスクの名前にその実行者を主語として加えると、「主語 (S) + 動詞 (V) + 目的語 (O)」の第3文型の完全文となり、英語の読み手にとって理解しやすい構文になることを考察しました。

実行者: Patient
タスク名: Send Doctor Request
完全文: Patient sends doctor request. (患者は診察依頼を送信する。)

一方、日本語ではアクティビティーやタスクを「名詞 + 名詞」で命名することも多く、そのまま英訳すると英語圏の人にとっては理解しにくい表現になってしまうことも紹介しました。

youneedaken.hatenablog.com

NRS Business Process Standards and Guidelines using BPMN

(2023-08-28 更新)

ビジネスプロセスをどのような動詞で命名すれば良いかについては、カナダのブリティッシュコロンビア州が作成した "NRS Business Process Standards and Guidelines using BPMN" が参考になります。Business Process Model and Notation 2.0 (BPMN 2.0) の利用標準ガイドラインである同文書では、ビジネスプロセスにおける命名で使うべき動詞を一覧しています。

NRS Business Process Standards and Guidelines using BPMN

今回は、同文書で推奨されている動詞を日本語訳と共に紹介します。

Photo by Owen Yin on Unsplash

ビジネスプロセスで使うべき動詞

A~E

動詞 (英語) 動詞 (日本語) 動詞 (英語) 動詞 (日本語)
Accept 引き受ける
受諾する
受理する
受け入れる
Decide 裁定する
決める
Adapt 順応させる Define 定義する
Adopt 採用する
導入する
Deliver 配達する
届ける
納品する
配信する
供給する
送る
引き渡す
交付する
Align 調整する
調節する
Deploy 配備する
配置する
展開する
Allocate 割り当てる
計上する
配分する
Describe 記述する
説明する
描写する
表現する
Apply 適用する Design 設計する
デザインする
Approve 承認する Determine 決定する
確定する
特定する
判定する
判断する
Arrange 準備する
手配する
Develop 開発する
Assess 評価する Discuss 議論する
Assign 割り当てる Distribute 分配する
区分する
割り振る
Authorize 認可する
許可する
Divide 分割する
Begin 開始する Enable 可能にする
有効にする
Build 構築する Enter 入力する
Calculate 演算する
計算する
Establish 設置する
制定する
確立する
Capture 取り込む
キャプチャーする
Estimate 見積もる
Categorize 分類する Evaluate 評価する
査定する
Change 変更する Examine 観察する
分析する
検査する
Choose 選択する Execute 実行する
Circulate 回覧する
配布する
Expedite 促進させる
Clarify 明確化する Explore 探索する
調査する
Classify 分類する
Close 分類する
Combine 結合させる
Compile 蓄積する
集める
編集する
コンパイルする
Complete 完了する
Conduct 実施する
Confirm 確認する
Construct 組み立てる
建設する
構築する
構成する
Continue 継続する
Control 制御する
Convert 変換する
Coordinate 統合する
まとめる
調整する
連係させる
整理する

F~J

動詞 (英語) 動詞 (日本語) 動詞 (英語) 動詞 (日本語)
Facilitate 促進する
円滑に進める
Identify 識別する
Finish 終える Implement 実行する
実装する
Focus 注目する
フォーカスする
Improve 改善する
Forecast 予想する
予測する
予報する
予定する
Include 含める
Form 形成する Increase 増やす
高める
拡大する
Forward 転送する
送付する
Initiate 始める
開始する
起動する
Foster 発展させる
育成する
助長する
Integrate 統合する
Gather 収集する Interview インタビューする
Generate 生成する Involve 取り込む
参加させる
Group グループ化する Issue 発行する
Guide ガイドする

K~O

動詞 (英語) 動詞 (日本語) 動詞 (英語) 動詞 (日本語)
Launch 始める
開始する
起動する
Name 命名する
Leverage 利用する
活用する
Navigate 航行する
操縦する
操舵する
License 認可する
使用権を認める
使用許可を与える
Notify 通知する
Link リンクする Obtain 取得する
Load ロードする Offer 提示する
提供する
提案する
Locate 探す Open 開く
Maximize 最大化する Operate 操作する
Measure 計測する Optimize 最適化する
Minimize 最小化する Order 注文する
Modify 修正する
変更する
Organize 編成する
構造化する
体系化する
企画する
Move 移動する

P~Z

動詞 (英語) 動詞 (日本語) 動詞 (英語) 動詞 (日本語)
Perform 実行する
遂行する
Scan スキャンする
Plan 計画する Schedule スケジュールに入れる
予定を決める
Prepare 準備する Screen 検査する
選抜する
Present 発表する Search 検索する
Prioritize 優先する Secure 確保する
保護する
Process 処理する Select 選択する
Produce 産出する
生産する
製造する
製作する
Serve 供給する
Propose 提案する Settle 解決する
調停する
確定させる
決定する
清算する
決済する
Provide 提供する Share 共有する
Purchase 購入する Show 表示する
Qualify 資格を与える
適格とする
適任とする
Simplify 純化する
簡素化する
簡略化する
Quantify 定量化する Sort ソートする
Query 問い合わせを行う Specify 特定する
Receive 受け取る
受領する
Staff 配属する
Record 記録する Start 始める
開始する
Refer 参照する Structure 構造化する
構築する
スケジュール化する
Register 登録する Submit 提出する
Release 解放する Suggest 提案する
提言する
勧める
Replace 置き換える
置換する
Supply 供給する
支給する
提供する
Reply 返信する Support 支える
支持する
支援する
Report 報告する Survey 調査する
検査する
Request 要求する Test テストする
Reserve 予約する Translate 翻訳する
Resolve 解決する Transmit 転送する
Respond 答える
応答する
Update 更新する
Return 返す
戻す
返却する
返品する
返送する
返上する
Validate 正当であると確認する
認証する
Review 再調査
再検討する
再考察する
見直す
Verify 検証する
立証する
実証する
確かめる
確認する
点検する
照合する

ビジネスプロセスで使うべきではない動詞

NRS Business Process Standards and Guidelines using BPMN では、ビジネスプロセスで使うべき動詞と共に、使うべきではない動詞も紹介しています。

以下の動詞は、明確さを欠いていたり、継続的に実行される行為を表すために、アクティビティーやタスクの命名には使うべきではないとしています。

動詞 (英語) 動詞 (日本語)
Administer 管理する
運営する
処理する
Maintain 維持する
Manage 管理する
Monitor 監視する
Process 処理する