ビジネスプロセスは、動詞 + 名詞で書く

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ビジネスプロセスマッピング

ビジネスプロセスマッピング (Business Process Mapping) とは、業務プロセスを視覚的に表現することです。ビジネスプロセスマッピングの作成物としてのプロセスマップ (Process Map)は、組織がプロダクトやサービスを完成させるために必要なステップの関連を表し、フローチャートやBusiness Process Modeling and Notation (BPMN) などの表記法を用いて描きます。

システム開発の成果物として作成することもありますが、システム開発とは必ずしも関係しない業務の手順を文書化するために作成することもあります。

プロセスマップの構成要素

プロセスマップは、単純な記述の場合、仕事・作業を意味する「アクティビティー」や「タスク」を示す図形と、それらの間の順序を示す線や矢印で表現されます。より複雑な記述の場合は、条件分岐を示す図形や、入力や出力の文書やファイルなどを示す図形など、その他の要素を加えて表現されます。

BPMN 2.0 のモデル要素 (一部)

アクティビティー名やタスク名は動詞 + 名詞にする

ビジネスプロセスマッピングの厳密な仕様である BPMN 2.0 では、アクティビティーやタスクなどの要素名の規則は特に定めていません。

Business Process Model and Notation (BPMN) Version 2.0

しかし、英語圏でのプロセスマッピングや BPMN のベストプラクティスでは、アクティビティー名やタスク名は、「動詞 + 名詞」で命名すべきと言われています。

Each Activity should be named using a Verb-Noun phrase that is short and meaningful. The verb used should use the present tense and be familiar to the organization. The noun has to be qualified and also of meaning to the business.
(日本語訳)
アクティビティーは、動詞と名詞を組み合わせた短く意味のある語句を使って命名する。動詞は現在形を使用し、組織にとって馴染みのあるものを使用する。名詞は、修飾的でビジネスにとって意味のあるものでなければならない。

Naming Conventions for BPMN Diagrams

Tasks. Tasks should be named in a verb-noun format e.g. Input purchase order data, Read Visio Guidelines.
(日本語訳)
タスク. タスクは、動詞-名詞形式で命名する。例. Input purchase order data (発注データを入力する)、Read Visio Guidelines (Visio ガイドラインを読む)

Introductory Guide to Process Mapping & Modelling - BPM Leader

また、BPMN 2.0 の仕様文書においても、サンプルでは基本的に「動詞 + 名詞」で表現されています。

Business Process Model and Notation (BPMN) Version 2.0, Figure 7.1

  • Determine Order is Complete
  • Check Record of Applicant
  • Determine Premium of Policy
  • Approve or Reject Policy
  • Notify Applicant of Approval or Rejection

アクティビティーやタスクは、多くの場合、ビジネスプロセスの参加者を示す「プール」、「レーン」、「スイムレーン」の中に配置されます。参加者を主語とすると、各プールの中のアクティビティーやタスクは、「主語 (S) + 動詞 (V) + 目的語 (O)」の基本文型になり、英語圏の人にとって理解しやすい表現になっています。

例えば、以下の図の上段のプールの最初のタスクは、Patient が実行するため、"Patient sends doctor request." (患者は医師に診察を依頼する) という英文になります。

Business Process Model and Notation (BPMN) Version 2.0, Figure 7.3

日本語だと名詞 + 名詞で書かれることが多い

一方、日本語のプロセスマップは、「名詞 + 名詞」で命名されるケースが多くあります。 例えば、 BPMN 2.0 のサンプルを日本語でよく見かける書き方にすると、以下のようになります。

Business Process Model and Notation (BPMN) Version 2.0, Figure 7.1 の日本語訳

  • 申込完了判断
  • 申込人の記録確認
  • 保険料判断
  • 保険契約の引受または謝絶
  • 引受または謝絶の申込人宛通知

判断、確認、引受、謝絶、通知は、すべて名詞です。

日本語のプロセスマップを英訳する時の注意点

先ほどの例のように、「名詞 + 名詞」の形式で書かれた日本語のプロセスマップを英語にすると、英語も「名詞 + 名詞」のアクティビティー名とタスク名になります。このような書き方は、英語であっても英語圏の人には分かりにくい表現になっています。

  • Determination of Application Completion
  • Verification of Applicant's Record
  • Insurance Premium Determination
  • Acceptance or Rejection of Insurance Policies
  • Notification to Applicant of Acceptance or Rejection

日本語のプロセスマップを英語にする場合は、英訳した結果を「動詞 + 名詞」にしておくと、英語圏の人にも理解しやすい表現になります。

「○○化」を英語にする時の傾向と対策

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英語にするのが難しい「○○化」

前回のブログ記事では、英語にするのが難しい言葉として「○○化」を取り上げ、その中でも IT文書でよく使われるものについて訳し方を紹介しました。

youneedaken.hatenablog.com

「○○化」の中には、"virtualization" と訳される「仮想化」のように単語の対訳があるものもあれば、「API化」のように対訳がないものもありました。

今回は、英語に対訳のない「○○化」を英訳しなければいけない時の注意点と対策をご紹介します。

「○○化」を英語にする時の傾向と対策

書き換える

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英語に対訳のない「○○化」の中には、翻訳ツールを使っても適切な訳にならないものもあります。例えば、「IT化」という言葉を使った文章を翻訳ツールにかけたところ、"IT-ize" という英語に存在しない言葉として翻訳されたことがありました。

対訳のない「○○化」は、英語でも意味の通る表現に書き換える必要があります。

「IT化」であれば、"modernize ~ by IT" (IT で ~ をモダナイズする)、"automate ~ by IT" (IT で ~ を自動化する ) 、もしくは近い意味の "digitalize ~" (~ をデジタル化する) のように書き換えます。

その他の対訳のない「○○化」と書き換えは、前回のブログ記事を参考にしてみてください。

パラレリズムを崩さない

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パラレリズムとは、同じスタイルの言葉や文章を並べる修辞法です。例えば、箇条書きで名詞だけを並べる、動詞だけを並べる、完全文だけを並べるのもパラレリズムです。パラレリズムにより、統一性を持たせることで、分かりやすく、読みやすい文章になります。

例えば、以下の箇条書きは、日本語だと一見「○○化」で揃えられたパラレリズムになっています。

クラウドネイティブに向けた課題

  • 仮想化
  • クラウド
  • コンテナ化
  • API
  • マイクロサービス化

しかし、これを Google 翻訳にかけると、パラレリズムが崩れています。"virtualization" と "containerization" は、それぞれ「仮想化」と「コンテナ化」と単語による対訳になっていますが、"API conversion" は、2語になっている上に、「API 変換」という意味でもあるので、元の日本語の意味と少し変わっています。また、"cloud" と "microservice" は「○○化すること」ではなく、「○○化された後の状態」の意味になっています。

Challenges for cloud native

  • Virtualization
  • cloud
  • containerization
  • API conversion
  • microservices

「仮想化」と「コンテナ化」の他は1語にはできませんが、パラレリズムを意識して「○○化」に相当する意味の名詞または名詞句で揃えると、以下のように書き換えることができます。

Challenges for cloud native

  • virtualization
  • cloud adoption
  • containerization
  • API integration
  • rearchitecting to microservices

過程ではなく、結果で書く

「○○化」は過程を表す

「○○化」は、現状から○○の状態にするための「過程」を表す言葉と言えます。しかし、ここまで見てきたように、英語に過程を表現する言葉がない場合もあります。そういう場合は、「○○化」した後の「結果」で表現した方が分かりやすくなります。先ほどまでの例を結果で書くと、以下のようになります。

Technologies for cloud native

  • virtualization
  • cloud
  • containers
  • API
  • microservices

「仮想化」については、それ自体が技術の名前のため、"virtualization" のままとしています。その他は、技術名を表す名詞にしています。

英語にする文章ではなるべく「○○化」を避けて、結果に注目して書くと良いでしょう。

英語にするのが難しい日本語⑪「○○化」

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IT文書で頻出する「○○化」

IT文書を見ていると、よく「○○化」という表現が出てきます。例えば、「仮想化」や「API化」のような表現です。

デジタルトランスフォーメーション (Digital Transformation: DX) という言葉にあるように、IT やデジタル技術は本質的にビジネスや仕組みを変革していく手段なので、現在から未来への状態の変化を表す「○○化」が使われることは理解できます。

しかし、「○○化」の中には、英語に相当する単語がないものもあり、英訳しにく言葉でもあります。

saisaihitori.seesaa.net

note.com

単語の対訳がある「○○化」

まずは、英語にも単語が存在する「○○化」を見ていきます。代表的なものは「仮想化」で、動詞であれば "virtualize"、名詞であれば "virtualization" と表現します。このような「○○化」は、箇条書きのように単体の言葉としても、そして文章の中で使われていたとしても、ほぼそのまま英訳できます。

動詞形: -ize, 名詞形: -ation,

接尾辞の "-ize" は、形容詞に付加して「~のようになる」や「~化する」という意味の動詞になり、名詞に付加して「~の状態になる」という意味の動詞になります。

IT用語として使われる「○○化」の中で1番多い形態です。

日本語 英語 (動詞形) 英語 (名詞形)
可視化, 見える化 (する) visualize visualization
仮想化 (する) virtualize virtualization
グローバル化 (する) globalize globalization
構造化 (する) structurize structurization
コンテナ化 (する) containerize containerization
サービス化 (する) servitize servitization
システム化 (する) systemize systemization
最小化 (する) minimize minimization
最大化 (する) maximize maximization
最適化 (する) optimize optimization
細分化, セグメント化 (する) segmentalize segmentalization
正規化 (する) canonicalize
normalize
canonicalization
normalization
直列化 (する) serialize serialization
デジタル化 (する) digitalize digitalization
特化 (する) specialize specialization
パラメータ化 (する) parameterize parameterization
汎化 (する) generalize generalization
非直列化 (する) deserialize deserialization
モジュール化 (する) modularize modularization

動詞形: -ate, 名詞形: -ation

接尾辞の "-ate" は、形容詞に付加して「~させる」や「~する」という意味の動詞になり、名詞に付加して「~にする」という意味の動詞になります。

これらもITの文脈でよく使われます。

日本語 英語 (動詞形) 英語 (名詞形)
アクティブ化, 活性化 (する) activate activation
インスタンス化 (する) instantiate instantiation
永続化 (する) perpetuate perpetuation
カプセル化 (する) encapsulate encapsulation
差別化 (する) differentiate differentiation
断片化 (する) fragmentate fragmentation
難読化 (する) obfuscate obfuscation
非アクティブ化, 不活性化 (する) deactivate deactivation

動詞形: -ify, 名詞形: -ation

接尾辞の "-ify" は、形容詞や名詞に付加して「~の状態にする」という意味になります。

日本語 英語 (動詞形) 英語 (名詞形)
一元化 (する) unify unification
シンプル化 (する) simplify simplification

まだ辞書には載っていませんが、一部で日本語の「クラウド化」と同じ意味で、"cloudify" や "cloudification" という言葉も使われてきているため、将来的には一般的な英語になるかもしれません。

cloudify - Wiktionary

cloudification - Wiktionary

その他

その他のひとつの単語で表現できる「○○化」です。

日本語 英語 (動詞形) 英語 (名詞形)
暗号化 (する) encrypt encryption
一本化 (する) integrate integration
クラスタ化 (する) cluster clustering
セグメント化 (する) segment segmentation
多重化 (する) multiplex multiplexing
抽象化 (する) abstract abstraction
復号化 (する) decrypt decryption
符号化 (する) encode encoding
文書化 (する) document documentation

単語の対訳がない「○○化」

ここまで見てきた「○○化」は単語の対訳がありましたが、ここからは英語に相当する単語のない「○○化」を見ていきます。

英語に相当する単語のない「○○化」は、多くの場合、動詞や目的語を組み合わせた言い回しで表現することになります。

日本語 英語 (動詞形) 意味
API expose ~ as an API
publish ~ as an API
~ を API として公開する
IT化 digitalize ~
modernize ~ by IT
automate ~ by IT
~ をデジタル化する
IT で ~ をモダナイズする
IT で ~ を自動化する
オープン化 open ~ ~ を公開する
~ をオープンにする
オンライン化 go online
make ~ work online
オンライン化する
~ をオンライン化する
キャッシュレス化 make ~ cashless ~ をキャッシュレス化する
クラウド adopt cloud
move ~ to the cloud
migrate ~ to the cloud
クラウドを導入する
~ をクラウドに持っていく
~ をクラウドに移行する
効率化 streamline ~
make ~ more efficient
~ を効率化する
再利用可能化 make ~ reusable ~ を再利用可能にする
サイロ化 ~ become siloed ~ がサイロ化する
自己目的化 become an activity trap 自己目的化する
冗長化 make ~ redundant ~ を冗長化する
スリム化 slim down ~
streamline ~
~ をスリム化する
~ を簡素化する
疎結合 make ~ loose coupled
decouple ~
~ を疎結合にする
~ を分離する
ハッシュ化 hash ~ ~ をハッシュ値に変換する
~ のハッシュ値を計算する
ペーパーレス化 go paperless ペーパーレス化する
別データベース化 separate ~ to a different database
move ~ to a separate database
~ を異なるデータベースに分離する
~ を別のデータベースに移動する
マイクロサービス化 turn ~ to microservices
convert ~ to microservices
rearchitect ~ to microservices
~ をマイクロサービスに変える
~ をマイクロサービスに変換する
~ をマイクロサービスにリアーキテクトする
メトリクス化 create metrics メトリクスを作成する
有料化 charge for ~
switch ~ to paid services
~ を有料にする
~ を有料サービスにする
リアルタイム化 make ~ real-time ~ をリアルタイムにする

これらの「○○化」は、翻訳ツールを使っても正しい英語にならないことがあります。例えば、「IT化」を使った文章を翻訳ツールで英訳したところ、"ITize" という英語に存在しない言葉を使った文章に翻訳されるケースがありました。

「○○化」を使った文章を英語にする時は、翻訳結果が正しい英語になっていることを確認しましょう。

英語にするのが難しい日本語⑩「ひも付け」

Photo by Quý Nguyễn

マイナンバーの「ひも付け」問題

最近、マイナンバーこと個人番号に公金受取口座を指定するにあたって、他人や家族といった本人以外の名義の口座が登録されていることが問題になっています。原因としては行政による事務手続きのミスや、家族の中でまだ口座を持っていない子供のマイナンバーに親の口座を登録している例などがあると言われています。

www3.nhk.or.jp

www.itmedia.co.jp

報道ではマイナンバーと口座の関連付けのことを「ひも付け」や「紐付け」と言っており、マスコミだけなく総務省もこの言葉を使っています。

www.soumu.go.jp

IT業界でよく使われる「ひも付け」

Photo by Tima Miroshnichenko

「ひも付け」や「ひも付ける」という表現は、以前より日本のIT業界で使われてきました。例えば、「マイナンバーと銀行口座番号をひも付ける」、「経費申請と請求書のひも付け処理」、「人事システムに Active Directory のユーザーをひも付けてシングルサインオンを実現する」のような言い方をします。

意味としては、識別子や名称によって異なるデータやオブジェクト同士を関連付けることを指しています。

ひもづけ【×紐付け】〘名・ス他〙
あるデータと別のデータを関連づけること。「リストと画像の―」
西尾実他, 岩波 国語辞典 第8版, 岩波書店, 2019.

「ひも付け」は比較的新しい日本語

作者: doosy

実は「ひも付け」は、最近まで辞書には載っていない言葉でした。2019年発行の『岩波 国語辞典 第8版』には掲載されていますが、2011年発行の『岩波 国語辞典 第7版 新版』ではまだ掲載されていませんでした。他の国語辞典でも概ね2020年前後に発行された版で、現在の意味で掲載されるようになったようです。

それ以前は「紐付き」という言葉はありましたが、「ひも付け」とは別の意味で使われていました。

ひもつき【×紐付(き)】
①ひもが付いていること。そういうもの。「―のしおり」
②行動がしばられる(結果になる)背後関係があること。「―の援助」「あの女は―さ」
西尾実他, 岩波 国語辞典 第7版 新版, 岩波書店, 2011.

「ひも付け」の方は、国語辞典の文例にコンピュータやデータといった単語を使っていることから想像すると、元々IT業界で特殊な意味で方言的に使われていたところから、後に一般にも広まった言葉であると考えられます。

「ひも付け」は新しい言葉であるが故に英訳しにくい

新しい言葉であることから「ひも付け」を含んだ文章は翻訳ツールを使っても適切な英文にならないことがあります。

例えば、以下の文章を DeepL と Google 翻訳にかけたところ、「ひも付け」を "string" (1列に並べる、ひと続きにする) や "attach" (取り付ける, 添付する) と訳しています。

行政機関が間違って個人識別番号を他人の銀行口座にひも付けてしまった。

DeepL

A government agency mistakenly strings a personal identification number to someone else's bank account.

Google 翻訳

A government agency mistakenly attached a personal identification number to someone else's bank account.

また、以下の文章の場合は、DeepL はやはり "string" と訳していますが、Google 翻訳は「ひも付け」に相当する言葉を使わずに訳しています。

毎月、オペレーション部門では経費申請と請求書のひも付け処理をしている。

DeepL

Each month, the Operations Department processes expense applications and strings together invoices.

Google 翻訳

Every month, the operations department processes expense requests and invoices.

"attach" は文脈が明確であれば意味が伝わると考えられます。一方、"string" は比喩的な表現として理解されることもあるかもしれませんが、日本語の「ひも付ける」の意味を表す英文にはなりません。

「ひも付け」の訳し方

「ひも付け」の英訳としては、"link" や "linkage" が相当します。"link" は「複数のものを接続する」、"linkage" は「接続」や「繋がり」の意味になります。

例えば、英字新聞の The Japan Times も今回のマイナンバーに関する報道では "linked" と表現しています。

The Digital Agency has also revealed a different kind of glitch in the system. According to the agency, nearly 55 million people have included their bank accounts as part of their My Number registration. However, at least 130,000 bank accounts linked to My Number accounts and set up to receive state benefits belong not to the cardholders but to their family members. Apparently, in most cases parents used their own bank details when registering their children. In several hundred other cases, completely different individuals’ information — the wrong person — was registered.
(日本語訳)
デジタル庁は、また別の種類のシステムの不具合も明らかにした。同庁によると、約5,500万人がマイナンバー登録時に銀行口座を申告している。しかし、国からの給付金を受け取るためにマイナンバーのアカウントにひも付けられた少なくとも13万件の銀行口座は、カード所有者ではなく、その家族のものになっている。どうやら、そのほとんどは、親が子供のマイナンバー登録をした際に、自分の銀行口座を登録したケースと見られる。また、数百件のケースでは、まったく別の個人の情報、つまり人違いで登録されていた。

www.japantimes.co.jp

また、「関連(付ける)」という意味の "associate" や "association" と表現することもできます。

"link" は、ケーブルなどによって物理的に繋がっていたり、C言語の実行モジュールを作成するリンク処理やHTML のハイパーリンクのようにプログラムで繋がりが定義されているようなニュアンスであるのに対して、"associate" は、Unified Modeling Language (UML) の関連線のように概念的に結び付けられているようなニュアンスがあります。

先ほどの文章をそれぞれ "link" を使って英訳すると、以下のようになります。

The government agency mistakenly linked a personal identification number to someone else's bank account.


Each month, the Operations Department processes the linkage of expense reports with invoices.

翻訳ツールも文章や文体によっては「ひも付け」を "link" や "linkage" と英訳したケースがありました。「ひも付け」が国語辞典にも掲載されている現在、翻訳ツールもいずれ学習の結果として適切な英語にしてくれると思われます。しかし、「ひも付け」以外にも、まだ一般化していない、または一般化して間もない言葉を含む文章を英訳する際には注意が必要です。

note 第2弾

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note 第2弾: Web開発のアーキテクチャーパターン (とその使い時)

先日、note 第2弾として Slalom Technology のブログを日本語に翻訳しました。原文は、Slalom Boston のソフトウェアエンジニアリングギルドが共同執筆した、"Web Development Architecture Patterns (and When to Use Them)" です。

代表的な Webサイトのレンダリング (生成・表示) 方法として、サーバーサイドレンダリング (Server-side Rendering: SSR) とクライアントサイドレンダリング (Client-side Rendering: CSR) がありますが、どちらを選択すべきか考える時の一般的な考慮事項について解説しています。

note.com

medium.com

全角記号は使わない

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日本語では記号が多用される

日本語の文章では記号がよく使われます。例えば、箇条書きの先頭に「・」をつけたり、伏せ字を意図して「○○」のように表現したりすることがあります。

箇条書きの先頭の「・」

スクラムチームは、以下の役割で構成される。
開発者
プロダクトオーナー
スクラムマスター

伏せ字の「○○」

○○○○○○丁目

日本語のキーボードでは、一部の記号がキーに割り当てられていたり、漢字と同様に「まる」とタイプして「○」に変換できるため、タイピングのテンポを崩すことなく全角記号を扱うことができます。

英語の文章でも記号は使われますが、ほぼ ASCII文字に含まれる記号に限られます。それに比べて日本語の文章で使われる記号は多岐に渡ります。

ASCII 文字セット

英文で全角記号を使うべきではない理由

日本語で全角記号を使うのは問題ありませんが、英語の文章では以下のような理由により全角記号を使うべきではないと考えています。

意味が伝わらない

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記号の中には、日本語独自の意味や用法があるものもあります。例えば、注釈や注意喚起を表す「※」や、○ (良い) と× (悪い) の中間評価や会計上のマイナスを表す「△」などです。「※」は英語には存在しない記号ですし、「△」が中間評価やマイナスを示すのは日本だけです。

注釈や注意喚起を表す「※」

パスワードは、英大文字・英小文字・数字・特殊文字をそれぞれ1つ以上含む必要があります。

マイナスを表す「△」

業績 売上高 営業利益 経常利益 純利益
連20. 3 1,961,871 48,461 47,013 15,310
連21. 3 716,338 452,429 439,010 392,279
連22. 3 1,007,979 160,782 172,590 131,283

決算書の「マイナス三角△」の意味とは?具体的な使い方など日本独特の会計事情 | 税理士コンシェルジュ

英語圏の人は、これらの記号を見慣れていなかったり、日本語と同じ意味で解釈できません。そのため、英文の中でこれらの記号を使っても、書き手が意図した通りには読み手に伝わらない可能性があります。

youneedaken.hatenablog.com

半角記号と区別がつかなくなる

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実務翻訳では、日本語の原文で「※」のような全角記号が使われていたとしても、「*」のような英語でも使われる半角記号に置き換えます。また、翻訳ツールも半角記号に置き換えてくれます。

便利な※(こめじるし)、でも英文ではご注意 | CJコラム

ただし、この全角記号から半角記号への置き換えは、日本語の原文で似た意味を持つ全角記号と半角記号を使い分けている場合に問題が生じします。

例えば、次のような半角スラッシュと全角スラッシュが混在した文章があったとします。B/L、C/O、I/P、L/C は、貿易取引で使われる書類の略称です。この文章では、頭字語であることを示す半角スラッシュと、並列語句の区切りとしての全角スラッシュがひとつの文章に混在しています。日本語の文章では、全角スラッシュと半角スラッシュの見た目が異なるので、何とか読めます。

この貿易管理システムでは、注文番号をキーにインボイス/B/L/C/O/I/P/L/Cを検索できる。

  • B/L: bill of lading, 船荷証券
  • C/O: certificate of origin, 原産地証明書
  • I/P: insurance policy, 保険証
  • L/C: letter of credit, 信用状

しかし、この文章を翻訳ツールなどで英訳すると、次のような文章になります。全角スラッシュが半角スラッシュに置き換えられてしまったため、どこで区切れば良いか分からない文章になってしまいました。

This trade management system can retrieve invoices/B/L/C/O/I/P/L/C with the order number as a key.

日本語の感覚で全角記号と半角記号を使い分けていると、英語で両方とも半角記号に置き換えられた場合に、意味が分かりづらい英文になることがあります。

生産性を落とす

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普段日本語を書くことが多い人は、PC で IME (Input Method Editor) を有効にしていると思います。一方、仕事で英語しか書かない人は IME を有効にしていません。仮に有効にしていても、英語/日本語の切り替えは、普段から日本語を書いている人ほどにはスムーズにできません。

例えば、複数人数で編集するような文書で全角記号を使っていて、編集する人の中に普段は IME を使っていない人が含まれる場合は、全角記号の入力の仕方が分からなかったり、別なところからコピー&ペーストで入力しなければいけなかったりして、生産性が落ちてしまうことがあります。

また、普段は英語だけ書いている人は、英語/日本語の切り替えにストレスを感じることもあります。

英文では全角記号は使わない、半角に置き換える時も使い方に注意する

今回見たような理由により、英語の文章では全角記号を使うのは避けましょう。

また、日本語の原文で全角記号を使っている場合は、英訳の時に同じ意味を持つ半角記号に置き換えますが、置き換えによって原文の意図と異なる表現にならないように注意します。

英語でアウトプットするIT技術者に求められる能力

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実務翻訳者に求められる能力

先日、英語の技術ブログを日本語に翻訳し、note で公開しました。

note.com

はてなの方のこちらのブログでは、翻訳に限らず英語でアウトプットすることをテーマに考えてきましたが、note の方は逆に日本語でアウトプットする機会でした。

私自身は翻訳を職業としているわけではありませんが、翻訳について調べている中で実務翻訳についての興味深い教材がありました。

Lesson 1 実務翻訳とは
ワン・ポイント・・・・・・実務翻訳者に求められる能力

「英語が好きだから、仕事にしたい」という思いから翻訳を志す人が多いのですが、実務翻訳者に求められるものは、英語力だけではありません。以下の能力をバランスよく備えている必要があります。

(1)英語の能力

すべては、原文を正しく理解することから始まります。最適な訳語を見つけることによって、原文の真意を読み取り、具体的なイメージをつかむことが大事です。自分が理解できていない内容を表現しようとしても、意味不明の訳になるだけです。また、日本語にも色々なレベルの文章があるように、英語の原文が英文法に準じて、正しく書かれているとは限らないということも頭に置いておく必要があります。

(2)日本語の能力

理解した内容を、読み手に正しく伝えるためには、明快で分かりやすい日本語を書く力が必要です。毎日何気なく使っている日本語でも、いざ適切に使おうと思うと、意外と難しいものです。普段から、表現者の目で文章を読むように心掛け、論理的な文章を書く訓練を意識的に行なことが大切です。

(3)翻訳対象に関する知識

言い換えれば、「専門知識」ということですが、最初からパーフェクトである必要はありません。要は、原文を正しく理解できればいいのですから、分からないことが出てきたら、とにかく調べ、調べた知識を蓄積していけば、道が開けてきます。希望分野が決まっていれば、その分野に関する新聞記事や雑誌に普段から目を通しておくことをおすすめします。

(4)調査する力

最近は、インターネットの普及で、様々な情報がぐっと入手しやすくなっています。分からないことは分かるまで調査する「粘り強さ」こそがプロ翻訳者の必須条件です。少しでも疑問が生じたら、調査の手間を省かず、とことん調べましょう。そのためには、パソコンやインターネットに強くなることも必要です。
MRI語学教育センター, Lesson 1 実務翻訳とは

この教材に書かれていたことは、このブログがテーマにしてきた、日本のIT技術者が英語でアウトプットする際にも共通するものがあるように思いましたので、今回は「英語でアウトプットするIT技術者に求められる能力」を考えてみました。

英語でアウトプットするIT技術者に求められる能力

ITプロジェクトの現場では、英語が得意だから、留学経験者だから、帰国子女だから、海外出身だからなどという理由で、日本語文書の英訳や英語版の作成をアサインされることが時折行われますが、伝わる英語のアウトプットを作るのに必要な能力は英語力だけではありません。以下の能力をバランス良く備えている必要があります。

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(1) 日本語の能力

既にある日本語の文書を英訳する時は、日本語で書かれた内容を正しく理解できる必要があります。正しく理解できないと、誤訳してしまう可能性があります。

先に日本語の文書を作ってから英語版を作る時も、日本語の文法として正しい文章を書ける必要があります。別の人が英訳する場合には、翻訳者に意図を正しく伝えなければいけませんし、翻訳ツールを使う場合にも文法的に正しい日本語で書かないと意図とは異なる英訳になることがあるためです。

(2) 英語の能力

英語のアウトプットを読み手に正しく伝えるためには、分かりやすい英文を書く必要があります。

日本語の文書を英訳する時に、元の日本語が主語を省略しているような場合は、適切に主語を補完して正しい英語にする必要があります。また、元の文章が長すぎる場合は、2文に分けるなどといった工夫も必要です。直訳すると分かりにくい英文になってしまう時に、元の文章の意図を変えずに意訳するためには、高度な英語能力が必要です。

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(3) ドメイン知識

ITに限らずとも専門性が要求される分野について文章を書く際には、その分野のドメイン知識が必要です。日本語の原文があってそれを英訳する場合でも、単に日本語が読めるだけでは、内容を理解できるとは限りません。

例えば、IT用語を一般用語と勘違いして誤訳してまうケースはよく見かけます。

また、特定の業界や企業の中だけで通じる言葉を使っている文章を英訳する際にも注意が必要です。

(4) 調査能力

ITの世界では、日々新しい技術、製品、サービスが発表されます。たとえドメイン知識があったとしても、その知識が古いこともあり得ます。足りないドメイン知識を補ったり、アウトプットに必要な情報をアップデートするためには、調査能力が必要になります。

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すべての能力をひとりで備える必要はない

4つの能力をひとりの人物が備えている幸運はなかなかないでしょう。ITの現場であれば、チームで取り組むことが多いと思いますので、あなたがマネージャーやリーダーで英語のアウトプットを作らなければいけない場合は、チームとしてこれらの能力が備わっているか確認し、足りない能力がある場合は補強しましょう。あなたがメンバーとして英語のアウトプット作成にアサインされた場合は、自分に足りない能力を明確にし、マネージャーやリーダーと相談して必要なサポートをもらいましょう。

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