日本語では記号が多用される
日本語の文章では記号がよく使われます。例えば、箇条書きの先頭に「・」をつけたり、伏せ字を意図して「○○」のように表現したりすることがあります。
箇条書きの先頭の「・」
伏せ字の「○○」
○○県○○市○○町○丁目○番○
日本語のキーボードでは、一部の記号がキーに割り当てられていたり、漢字と同様に「まる」とタイプして「○」に変換できるため、タイピングのテンポを崩すことなく全角記号を扱うことができます。
英語の文章でも記号は使われますが、ほぼ ASCII文字に含まれる記号に限られます。それに比べて日本語の文章で使われる記号は多岐に渡ります。
英文で全角記号を使うべきではない理由
日本語で全角記号を使うのは問題ありませんが、英語の文章では以下のような理由により全角記号を使うべきではないと考えています。
意味が伝わらない
記号の中には、日本語独自の意味や用法があるものもあります。例えば、注釈や注意喚起を表す「※」や、○ (良い) と× (悪い) の中間評価や会計上のマイナスを表す「△」などです。「※」は英語には存在しない記号ですし、「△」が中間評価やマイナスを示すのは日本だけです。
注釈や注意喚起を表す「※」
※パスワードは、英大文字・英小文字・数字・特殊文字をそれぞれ1つ以上含む必要があります。
マイナスを表す「△」
業績 | 売上高 | 営業利益 | 経常利益 | 純利益 |
---|---|---|---|---|
連20. 3 | 1,961,871 | 48,461 | 47,013 | 15,310 |
連21. 3 | 716,338 | △452,429 | △439,010 | △392,279 |
連22. 3 | 1,007,979 | △160,782 | △172,590 | △131,283 |
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英語圏の人は、これらの記号を見慣れていなかったり、日本語と同じ意味で解釈できません。そのため、英文の中でこれらの記号を使っても、書き手が意図した通りには読み手に伝わらない可能性があります。
半角記号と区別がつかなくなる
実務翻訳では、日本語の原文で「※」のような全角記号が使われていたとしても、「*」のような英語でも使われる半角記号に置き換えます。また、翻訳ツールも半角記号に置き換えてくれます。
ただし、この全角記号から半角記号への置き換えは、日本語の原文で似た意味を持つ全角記号と半角記号を使い分けている場合に問題が生じします。
例えば、次のような半角スラッシュと全角スラッシュが混在した文章があったとします。B/L、C/O、I/P、L/C は、貿易取引で使われる書類の略称です。この文章では、頭字語であることを示す半角スラッシュと、並列語句の区切りとしての全角スラッシュがひとつの文章に混在しています。日本語の文章では、全角スラッシュと半角スラッシュの見た目が異なるので、何とか読めます。
この貿易管理システムでは、注文番号をキーにインボイス/B/L/C/O/I/P/L/Cを検索できる。
- B/L: bill of lading, 船荷証券
- C/O: certificate of origin, 原産地証明書
- I/P: insurance policy, 保険証
- L/C: letter of credit, 信用状
しかし、この文章を翻訳ツールなどで英訳すると、次のような文章になります。全角スラッシュが半角スラッシュに置き換えられてしまったため、どこで区切れば良いか分からない文章になってしまいました。
This trade management system can retrieve invoices/B/L/C/O/I/P/L/C with the order number as a key.
日本語の感覚で全角記号と半角記号を使い分けていると、英語で両方とも半角記号に置き換えられた場合に、意味が分かりづらい英文になることがあります。
生産性を落とす
普段日本語を書くことが多い人は、PC で IME (Input Method Editor) を有効にしていると思います。一方、仕事で英語しか書かない人は IME を有効にしていません。仮に有効にしていても、英語/日本語の切り替えは、普段から日本語を書いている人ほどにはスムーズにできません。
例えば、複数人数で編集するような文書で全角記号を使っていて、編集する人の中に普段は IME を使っていない人が含まれる場合は、全角記号の入力の仕方が分からなかったり、別なところからコピー&ペーストで入力しなければいけなかったりして、生産性が落ちてしまうことがあります。
また、普段は英語だけ書いている人は、英語/日本語の切り替えにストレスを感じることもあります。
英文では全角記号は使わない、半角に置き換える時も使い方に注意する
今回見たような理由により、英語の文章では全角記号を使うのは避けましょう。
また、日本語の原文で全角記号を使っている場合は、英訳の時に同じ意味を持つ半角記号に置き換えますが、置き換えによって原文の意図と異なる表現にならないように注意します。