アルファベット略語 (頭字語) は最初にスペルアウトする。

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(2022-06-13 追記)

IT業界でよく使われるアルファベット略語 (頭字語)

IT業界では、頭字語いわゆるアルファベット略語がよく使われます。
単語の頭文字を繋げた時の読み方の違いで、アクロニムまたはイニシャリズムと呼ばれます。

アクロニム (acronym):
連なったアルファベットを通常の単語と同じように発音して読む頭字語。
例.RAM (Random Access Memory)

イニシャリズム (initialism):
単語の頭文字を1文字ずつアルファベットとして読む頭字語。
例.CPU (Central Processing Unit)

アルファベット略語は初出時にスペルアウトする

アルファベット略語を初出時にスペルアウトすることは、論文の執筆ガイドラインなどでもルールとして決められています。ただし、一般的な辞書にも略語として掲載されているような大多数の読み手に馴染みのある略語は、最初から略語のままでも良いとされています。

おそらく上でアクロニムとイニシャリズムの例に挙げた CPU や RAM は、スペルアウトしなくても問題ない馴染みのある略語の例と言えるでしょう。

University of Oxford Style Guide

When using an acronym that may be unfamiliar to your readers, spell it out in full the first time it is mentioned, with the acronym following in brackets; thereafter, use the acronym alone.
University of Oxford, "University of Oxford Style Guide", (University of Oxford, 2016).

(太字部分の日本語訳)

読み手に馴染みのないアクロニムを使う場合は、初出時に正式名称でスペルアウトし、カッコでアクロニムを示す。その後はアクロニムだけを用いる。

The Chicago Manual of Style Online

10: Abbreviations
10.3: When to use abbreviations
Outside the area of science and technology, abbreviations and symbols are most appropriate in tabular matter, notes, bibliographies, and parenthetical references. A number of expressions are almost always abbreviated, even in regular prose, and may be used without first spelling them out. Many of these will be listed as main entries with pronunciation (labeled as nouns rather than as abbreviations) in the latest edition of Webster’s (e.g., ATM, DIY, DNA, GPS, HMO, HTML, IQ, JPEG, laser, Ms., NASA). Others, though in more or less common use (CGI, FDA, HVAC, MLA), should generally be spelled out at first occurrence—at least in formal text—as a courtesy to those readers who might not easily recognize them. The use of less familiar abbreviations should be limited to terms that occur frequently enough to warrant abbreviation—roughly five times or more within an article or chapter—and the terms must be spelled out on their first occurrence. The abbreviation usually follows immediately, in parentheses, but it may be introduced in other ways (see examples). Such an abbreviation should not be offered only once, never to be used again, except as an alternative form that may be better known to some readers.

University of Chicago Press, "The Chicago Manual of Style, 17th ed.", (University of Chicago Press, 2017).

(太字部分の日本語訳)

一般的な文章でも、多くの語句は常に省略され、初出時のスペルアウトもされない。そのような略語は、ウェブスター辞典の最新版では (略語ではなく名詞として) 発音付きの見出し語として掲載されている (例.ATM、DIY、DNA、GPS、HMO、HTML、IQ、JPEG、laser、Ms.、NASA)。その他の略語 (CGIFDA、HVAC、MLA) については、多少なりとも一般的に使用されているものであっても、少なくとも正式な文書においては、すぐにはその意味を理解できない可能性のある読み手に対する礼儀として初出時にスペルアウトする。

IT文書でアルファベット略語のスペルアウトが必要な理由

私は、IT文書については以下のような理由から、アルファベット略語の初出時のスペルアウトが必要であると考えています。

  1. アルファベット略語の数が多く、同音異義語も多い。
  2. 多様な読み手が存在する。
  3. 誤訳の原因になる。

1. アルファベット略語の数が多く、同音異義語も多い。

IT業界はおそらく他の業界よりもアルファベット略語の数が多く、別の言葉が同じ略語になっているケースもあります。初出時にスペルアウトすることで、その文書においてはどの意味でアルファベット略語を使用しているかが明確になります。

このブログ記事の最後に、複数の意味があるアルファベット略語の例をまとめています。

2. 多様な読み手が存在する。

分野や目的にもよりますが、学術論文はある程度読み手を限定できる場合があります。そのため、読み手がどの程度の専門知識を持っているかを想定して、理解できる略語とそうでない略語を区別することができます。

IT文書の場合、「Javaプログラマー」や「Red Hat Enterprise Linux の管理者」のような極めて限定した読み手を想定できる場合は別として、多くの場合は異なる背景を持つ読み手がいます。例えば、システム開発プロジェクトの要件定義書や設計書であれば、読み手はビジネス側の業務ユーザーとIT側の開発者などがいます。ビジネス側とIT側で同じアルファベット略語を別の意味で使っているような場合は、それぞれの読み手が別の意味で解釈する可能性があります。

例えば、製造業のシステムについて、IT側の書き手が BOM を Unicode の符号化マーク (Byte Order Mark) の意味で使っても、ビジネス側の読み手は BOM を部品表 (Bill Of Materials) の意味で解釈するかもしれません。

3. 誤訳の原因になる。

日本語のIT文書を英語にする時は、本人が英訳する場合を除き、最終的な読み手の他に英訳の担当者という読み手がいます。英訳の担当者がアルファベット略語を書き手の意図とは異なる意味で解釈した場合は、誤訳を引き起こす可能性もあります。アルファベット略語をスペルアウトするとこで、英訳の担当者にも書き手が想定している意味を伝えることができます。仮に英訳の担当者がその略語の意味を知らなくても調べるための助けになり、英訳の精度も上がります。

複数の意味があるアルファベット略語の例

ASP

スペルアウト 意味
Active Server Pages マイクロソフトが開発したウェブページを動的に作成する技術
Affiliate Service Provider インターネットで成功報酬型広告を配信するサービスプロバイダ
Application Service Provider アプリケーションソフトのサービスをネットワーク経由で提供するプロバイダ

ATM

スペルアウト 意味
Asynchronous Transfer Mode 広域通信網などで利用される通信プロトコル
Automated Teller Machine 現金自動預け払い機

BOM

スペルアウト 意味
Bill Of Materials 製造業で用いられる部品表
Byte Order Mark Unicodeテキストの先頭につける、そのテキストが Unicode で符号化されていること示す数バイト分のデータ

BPM

スペルアウト 意味
Business Performance Management ビジネス業績管理
Business Performance Monitoring ビジネス業績監視
Business Process Management ビジネスプロセス管理
Business Process Map ビジネスプロセスマップ
Business Process Model ビジネスプロセスモデル

CGI

スペルアウト 意味
Common Gateway Interface Web サーバーが外部プログラムを実行するためのインターフェース仕様
CGI Group Inc. カナダのIT企業

CMS

スペルアウト 意味
Cash Management System 企業グループ全体の資金を一元管理するシステム
Color Management System 異なるデバイス間の色を統一的に管理するシステム
Content Management System テキストや画像などのデジタルコンテンツを統合的・体系的に管理し、配信などを行うシステム

CSS

スペルアウト 意味
Cascading Style Sheets HTML や XML の要素をどのように表示するか指示する仕様
Cross Site Scripting Webアプリケーションの脆弱性を利用した攻撃 (XSS と略すこともある)

CSV

スペルアウト 意味
Comma-Separated Values テキストデータをいくつかの項目に分けて、カンマで区切ったデータ形式
Character Separated Values テキストデータをいくつかの項目に分けて、何らかの区切り文字で区切ったデータ形式

DDD

スペルアウト 意味
Detailed Design Document 詳細設計書
Domain Driven Development ドメイン駆動開発

(2022-06-13 追記)
DX

スペルアウト 意味
AWS Direct Connect AWS への専用ネットワーク接続
Digital Transformation 「ITの浸透が、人々の生活をあらゆる面でより良い方向に変化させる」という仮説

EUC

スペルアウト 意味
End-User Computing 業務部門のエンドユーザーがシステムの構築や運用管理をするアプローチ
Extended Unix Code UNIX上で使われる文字コードの符号化方式

FDD

スペルアウト 意味
Floppy Disk Drive フロッピーディスクを読み書きするための装置
Functional Design Document 機能設計書

HP

スペルアウト 意味
Hewlett-Packard アメリカのコンピュータメーカー
Home Page Web ページ、もしくは Web サイトのトップページ

MDM

スペルアウト 意味
Master Data Management 情報システム内で使用されるマスターデータを管理する手法、またはそのためのソフトウェア製品
Mobile Device Management 携帯端末/モバイルデバイスの管理

(2022-03-23 追記 special thanks to T.T.)
MT

スペルアウト 意味
Magnetic Tape 磁気テープ
Message Type SWIFT のメッセージタイプ
Movable Type シックス・アパートが開発・提供する、ブログで用いられることの多いコンテンツ管理システム製品

(2022-03-28 追記 special thanks to K.K.)
PM

スペルアウト 意味
Product Manager プロダクトマネージャ
Program Manager プログラムマネージャ
Project Manager プロジェクトマネージャ

TDD

スペルアウト 意味
Technical Design Document 技術設計書
Test Driven Development テスト駆動開発