IT業界には重ね言葉(重言)が多い
重ね言葉や重言とは、「馬から落馬する」や「頭痛が痛い」のように同じ意味の言葉を重ねる表現方法です。IT業界では、英語由来の言葉をアルファベットやカタカナで表記することが多く、そこに同じ意味の日本語を重ねてしまうことがあります。
今回は、IT業界で見られる重ね言葉とその弊害を紹介したいと思います。
IT業界で見かける重ね言葉の例
インフラ基盤
「インフラ(ストラクチャ)」と「基盤」は、ほぼ同じ意味ですが、2つを重ねた「インフラ基盤」という言葉は企業の公式Webサイトなどでもよく使われています。
DX時代に求められるインフラ基盤|HPE GreenLake|SCSK株式会社
インフラ基盤構築 | 事業内容 | ネット・インフォメーション株式会社
翻訳ツールで英語にすると、単に infrastructure と訳してくれるものもありましたが、"infrastructure base" や "infrastructure infrastructure" のようにおかしな英訳になったものもありました。
ツール | 訳語 |
---|---|
Infrastructure base | |
DeepL | Infrastructure |
Microsoft | Infrastructure |
IBM | Infrastructure infrastructure |
公式Webサイトで「インフラ基盤」を英語で何と訳しているかを見たいと思いましたが、上記のリンク先のサイトでは英語ページはありませんでした。
「インフラ基盤」という日本語が含まれた文章を英訳しなければいけない場合は、単に "infrastructure" と訳すのが良いでしょう。英訳することが決まっている日本語の文章であれば、はじめから重ね言葉にせずに「インフラ(ストラクチャ)」や「基盤」と書いておくのが良いと考えます。
利用ユーザー
"user" は「利用者」という意味なので、「利用ユーザー」も一種の重ね言葉と言えます。この「利用ユーザー」も企業の公式マニュアルなどで使われています。
利用ユーザーを管理する | サイボウズ リモートサービス マニュアル
契約ユーザー数と利用ユーザー数の確認方法 | Kintone ヘルプサイト
利用ユーザーの管理方法(Google Workspace 編) – クラウド コンシェルジュ
「利用ユーザー」が単に「ユーザー」と置き換えられるような文脈の場合は、英語も "user" と訳すのが良いと思います。
ツール | 訳語 |
---|---|
User | |
DeepL | Users |
Microsoft | Application users |
IBM | User of use |
エレメント要素
XML や HTML の開始タグから終了タグに囲まれた単位を指して、「エレメント」や「要素」と言います。多くの場合、どちらか一方を記載する、もしくは「エレメント (要素)」のような書き方をして「エレメント」と「要素」が同義であることを示しています。しかし、たまに「エレメント要素」のように重ね言葉で表現している文書も見かけます。
5.1.2 エレメント要素(element)
ここでは,XBRL2.0の場合のタクソノミー文書で使用するエレメント要素について説明します。
タクソノミー文書では,XMLスキーマの<xsd:element>要素を使用して,インスタンス文書中に出現できる要素を定義します。エレメント要素では,アイテム型要素,タプル型要素などを定義します。
必要な数だけ、ツールボックスからエレメント要素をドラッグ&ドロップで配置します。このアドインではアイテムとエレメントの区別はありませんので、どちらもエレメント要素を利用して下さい。
Enterprise Architect 用 安全コンセプト記法(SCDL)アドイン 利用ガイド バージョン 1.4
説明
フォーム内のエレメント要素のみ取得するにはForm.getElements()メソッドを使います。特定のエレメントだけ取得したい場合にはForm.getInputs()メソッドを使います。
翻訳ツールにかけてみると、"element" と訳した DeepL 以外は "element element" というおかしな英訳になりました。
ツール | 訳語 |
---|---|
element element | |
DeepL | element |
Microsoft | Element Elements |
IBM | Element Elements |
ハイテク技術
「インフラ」は、そのまま "infra" と書いても英語圏では通じない日本語特有のカタカナ略語ですが、「ハイテク」は英語でも "high tech" が "high technology" の略として使われます。
High technology (high tech), also known as advanced technology (advanced tech) or exotechnology, is technology that is at the cutting edge: the highest form of technology available.
日本語では、重ね言葉と意識してか意識せずしてか「ハイテク技術」の表現を使うことがありますが、英語で "high tech technology" とは言いません。
ハイテク技術 (サイエンス)【はいてくぎじゅつ】
「ハイテク」はHigh Technology、つまり「高度な技術」の総称である。
「ハイテク」が「高度な技術」ならば「ハイテク技術」は「高度な技術の技術」ということになり重複表現である。「ハイテク技術」は単に「ハイテク」と称するのが本来正しい。
しかし「ハイテク」は「高度な技術を用いた」といった形容詞としても定着しており、単に「ハイテク」と表記した場合「高度な技術」と受け止められにくい傾向がある。
現代社会はたくさんの高度な技術によって成り立っている。それを指すのに「ハイテク技術」は言葉として正しくなくても使われ続けるものと思われる。
ハイテク技術とは サイエンスの人気・最新記事を集めました - はてな
ツール | 訳語 |
---|---|
hi-tech technology | |
DeepL | high-technology |
Microsoft | High-tech technology |
IBM | high-tech technology |
プロセス処理、処理プロセス
"process" を英訳する際の難しさは、以前こちらのブログ記事でも解説しました。
英語の "process" に翻訳される日本語としては、以下のようなものがあります。
- Linux や Windows などのオペレーティングシステム (OS) 上で実行されているプログラム
- 「業務プロセス」や「ソフトウェア開発プロセス」など、一連の仕事を進める方法や手順。工程。
- 事件または事務などをさばいて、始末をつけること。処理。
- 時の流れに従って進行していく物事の順序。また、その途中の経過。過程。
上記のような複数の意味があるため、文脈によっては「プロセス処理」や「処理プロセス」は重ね言葉にはならないと考えています。しかし、以前のブログ記事にも書いている通り、「プロセス」と「処理」の訳語が "process" や "processing" になってしまうため、もしも使わずに済むのであれば、英訳することが決まっている日本語の文章には「プロセス処理」や「処理プロセス」は使わない方が良いと思います。
プロセス処理
ツール | 訳語 |
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process treatment | |
DeepL | process processing |
Microsoft | Process processing |
IBM | Process processing |
処理プロセス
ツール | 訳語 |
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treatment process | |
DeepL | process |
Microsoft | Treatment process |
IBM | processing process |
重ね言葉に注意して英訳する
IT用語の重ね言葉は、できる限り日本語の文章でも使わない方が良いですが、「ハイテク技術」のようにある程度確信的に使われているようなケースもあります。英訳する時は、日本語の文章で重ね言葉が使われている可能性も考えて、英文を見直しておかしな翻訳になっていないか確認するのが良いでしょう。