漢字、カタカナ、英語のシノニム (同義語) に注意!

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シノニム (同義語)、ホモニム (同音異義語)、アントニム (対義語)

アメリカの小学校では、英語 (日本で言うところの国語) の授業で synonyms (シノニム)homonyms (ホモニム)antonyms (アントニム) について勉強します。だいたい小学校3年生くらいで習うようです。私もカリフォルニアの現地校に通っていた時に、それぞれについて調べる宿題をやった記憶があります。

アメリカの小学校で学ぶ英語 ~ Synonym シノニム, Antonym アントニム, Homonym ホモニム - アメリカ生活+子育てガイド

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シノニムとは、同義語、同意語、別名、異名、類義語、類語のことです。例えば、"お客様"、"顧客"、"クライアント"などはシノニムになります。文脈によっては、"取引先" などもシノニムである場合があります。

お客様、顧客、クライアント、取引先

取引先、顧客、得意先、仕入先、クライアントの違い - 社会人の教科書

ホモニムとは、同音異義語のことです。以前、こちらのブログ記事で取り上げた "Swift" などは異なる技術、団体/ネットワーク、鳥類などを指すホモニムの例です。

Swift, SWIFT, swift

youneedaken.hatenablog.com

アントニムとは、対義語、反意語、反義語、反対語、対語のことです。

シノニムとアントニムは、シソーラスで調べることができます。

youneedaken.hatenablog.com

今回は、シノニムを含んでいる日本語のIT文書を英語にする際の注意点について考えてみます。

IT文書に見られるシノニムの例

列、カラム、column、属性、attribute、項目、フィールド、field

DB column

データベースの "列" は、カタカナで "カラム"、英語では "column" ですが、"属性" や "attribute" と表現することもあります。また、"項目"、"フィールド"、"field" と表現することもあります。

列 / カラム / column、属性 / attribute、項目 / フィールド / field は別の概念であり、区別して使うべきであるという主張もありますが、ほぼ同義で使われるケースもあります。 前者の区別する例として、SQL の第一人者と言われるジョー・セルコ (Joe Celko) の定義があります。*1

列 (column) はフィールドではない。フィールドはそれを読み込むアプリケーションから意味を得る。またアプリケーションによっては複数の意味を持つことがある。フィールドはレコードの中で順序づけられており、データ型も制約もデフォルト値ももっていない。すなわち、列とフィールドの違いは、前者が能動的データであるのに対し、後者は受動的データである、という点が大きな違いである!列はまた、NULLであることも許される。これはフィールドには存在しない概念だ。これも、フィールドが物理的な存在であるのに対し、列は論理的存在であることに起因する違いである。SQLではテーブルに計算列を持つことができるが、ファイルではそれはできない。もし計算列を持ちたければ、それはファイルではなく、アプリケーション側で持つことになる。
セルコ, ジョー (著), ミック (監修, 翻訳): プログラマのためのSQL 第4版, 翔泳社, (2013).

後者の区別しない例としては、 2022年7月4日時点の日英の Wikipedia の記載があります。セルコの思惑とは反して、日本でも英語圏でも区別せずに使われているという実態を表しているものと思います。

日本語 Wikipedia

関係データベースのデータベース言語 SQL では、属性とほぼ同じ意味で列 (カラム、英語: column) という用語が使われている。
属性 (データベース) - Wikipedia

英語 Wikipedia

The word 'field' is normally used interchangeably with 'column'.
Column (database) - Wikipedia

列/カラム、属性、項目/フィールドのいずれもデータベース以外の文脈でも使われる言葉です。

  • 列/カラム
    • UI 上の表/テーブルに含まれる列/カラム
    • Excel の列
  • 属性
    • XML の属性
    • Windows ファイル/フォルダのプロパティ (読み取り専用、隠しファイル、アーカイブ)
    • Java 言語の属性 (フィールド、プロパティ)
    • C# 言語の属性 ([Serializable] のような、プログラムにつけるメタデータまたは宣言情報)
  • 項目/フィールド
    • UI 上の入力項目/フィールド
    • 帳票上の出力項目

文書全体がデータベースについて書かれているものであれば、読み手も列/カラム、属性、項目/フィールドを同義として解釈する可能性がありますが、複数の技術分野についての情報を含む文書だと書き手の意図とは異なる解釈がなされる可能性もあります。

認可、承認、authorization

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ITセキュリティの分野で「特定の条件下でリソースへのアクセスを許可すること」を意味する "authorization" という言葉があります。"authorization" は、日本語では "認可" もしくは "承認" と訳されます。つまり、"認可" と "承認" は、ITセキュリティの文脈ではシノニムになります。

認可と承認が同義であることを明示して書かれている文章もありますが、そうでない状態で2つの言葉を混在させた文章だと、ITセキュリティに詳しくない人が読んだ場合に、それぞれ別の概念だと解釈する可能性があります。別の概念だと解釈したまま文章を英訳すると、例えば "認可" を "authorization"、"承認" を "approval" のように別の英単語に訳してしまうことも考えられます。

また、認可と承認のどちらも、ITセキュリティではないビジネスの分野でも一般的に使われる言葉です。例えば、認可を ITセキュリティの意味で使い、承認を管理職や役職者が承諾することの意味で使っているような文章があった場合、今度は認可と承認をホモニムと解釈して同じ意味や同じ英単語に英訳してしまわないように注意する必要があります。

結合テスト、統合テスト、integration testing

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コンポーネント間、またはシステム間の相互作用に焦点を当てたテストレベル」を表す "integration testing" *2 は、"統合テスト" と訳されますが、文書によっては "結合テスト" と訳す場合もあります。同じ文書で2つの言葉を使ってしまうと、読み手は別のテストレベルであると解釈する可能性があります。

要求、要件、requirement

youneedaken.hatenablog.com

以前、こちらのブログ記事でも紹介した"要求"と"要件"も、英語にすると "requirement" になるという点で一種のシノニムと言えます。シノニムではなく異なる意味がある場合、英語にする時にはどのような特質を持つ requirement であるかを明確に書く必要があります。

業務要求(要件)、ビジネス要求(要件)、business requirement

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要求と要件ほどではありませんが、"業務要求(要件)" と "ビジネス要求(要件)" も区別する考え方があります。

非エンジニアに知って欲しい要件定義 | システム開発の基本 - EC-CUBEのカスタマイズ、ネットショップ制作メモ

必ず知っておきたい要件定義でやるべきこと#1.2

しかし、両者はどちらも英語の "business requirement" の日本語訳で、同じ意味であるという使い方の方が多いようです。

業務要件(ビジネス要件)とは - 意味をわかりやすく - IT用語辞典 e-Words

もし、両者を区別するのであれば、英語でも書き分ける工夫が必要になります。

ひとつの文書の中では、同一のもの(概念、対象)は同一の表記をする

IT文書に限りませんが、シノニムは2つの言葉が同じもの(概念、対象)を指しているのか、違うものを指しているのか、読み手を迷わせる可能性があるため、必要ない限り同一の表記をした方が良いと考えます。認可/承認、統合テスト/結合テスト、業務要求(要件)/ビジネス要求(要件)のように、同じもの表す言葉が複数あってどちらもある程度広く使われている時は、はじめに同義であることを示すことで誤読を避けられます。

英訳を第三者や翻訳ツールに委ねる場合にも、同一表記をすることで、書き手の意図と異なる英訳になってしまうことを避けやすくなります。

*1:セルコは同様に、テーブル (table) はファイルではない、行 (row) はレコードではない、とも定義しています。

*2:ISTQB Glossary - integration testing