ホモニム (同音異義語) にも注意! account 編

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エグゼクティブアーキテクトの教え

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前に所属していた会社に「アーキテクチャ思考」という研修がありました。エグゼクティブアーキテクト (最上位レベルの認定アーキテクト) が講師となり、10-20人くらいの受講者が業後に集まって、3回に分けてアーキテクトとしての根源的な思考方法を議論する研修でした。内容は、システム、コンポーネント、要件、モデリングなど多岐に渡っていましたが、何となく某教授の白熱教室のような大学・大学院のゼミにも似た雰囲気の研修でした。

その中で、ホモニム (同音異義語)とシノニム (同義語) について、次のような印象的なエグゼクティブアーキテクトの言葉がありました。

アーキテクトの書く文章にシノニムはあっても良いが、ホモニムは絶対にあってはいけない。

企業では、同一のもの (概念、対象) について、組織ごとに異なる言葉を使うことがあるため、ステークホルダー (関係者) の間の理解を取り持つために複数の言葉を使う (シノニムは許容する) ことがあります。一方、アーキテクトが使う言葉は厳密に定義されていなければならず、複数の意味を持っていてはいけない (ホモニムは許容しない) という趣旨でした。

しかし、日本語の文章を英語にする場合、意図せずホモニムになってしまいやすい言葉があります。

今回は、ホモニムになりやすい "account" という言葉について見ていきます。

英訳が account になる単語

英語の account に訳される言葉はいくつかあります。英和辞典だとかなり細かくなるので、Wikipedia の曖昧さ回避のページを引用します。番号は説明用に付記しています。

  1. 勘定科目、簿記。
  2. 銀行の口座
  3. コンピュータにおけるユーザーアカウント、どのユーザーがコンピュータシステムにアクセスできるかを決める。
  4. 電子メールアカウントやFacebookアカウントなどのオンラインアカウント。
  5. 企業の顧客、B2Bビジネスで使われる。
  6. アカウント (広告)、広告業界における顧客。

アカウント (曖昧さ回避) - Wikipedia

IT文書では、業種や業務に関わらず3と4は頻繁に登場します。5と6も顧客に関わる業務であれば登場する可能性があります。1や2は、金融業界や何らかの形で会計業務に関わるシステムの文書では必ずと言っても良いほど登場します。

口座、勘定科目、アカウントと書くと、日本語ではそれぞれ別の意味なので、あまり違和感なく文章を組み立てることができます。しかし、これらを英語に訳すとすべて "account" になってしまうため、どの意味で使っているかが分かりにくくなります。

銀行口座

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日本語で "口座" だけだと単に "account" と訳してしまいがちですが、"bank account" と書くことで、銀行口座の意味になります。文脈によっては口座種別で表現することもできます。

日本語 英語
普通預金口座 savings account (米国)
deposit account (英国)
当座預金口座 checking account (米国)
current account
定期預金口座 thrift account (米国)
time deposit account
term deposit account
fixed-term deposit account
総合口座 consolidated account
deposit combined account
multipurpose account

勘定科目

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"account title" と書くことで、勘定科目の意味になります。なお、個々の勘定科目名を見ると、"預金" も "account" と訳されています。

Account Titles

Japanese English
現金 Cash
小口現金 Petty Cash
普通預金 Savings Accounts
当座預金 Checking Accounts
定期預金 Time Deposits

Accounts name in English and Japanese|英語の勘定科目(英文財務諸表) - 深井公認会計士事務所|M&A|株価算定|会計・税務顧問|

会計英語にはもう迷わない!頻出勘定科目132選! | クラウド会計ソフト マネーフォワード

勘定科目の英語 辞書(BS・PL・CS 別)|USCPAどこのブログ

アカウント①

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3と4の用法におけるアカウントは、「コンピュータやネットワークなどを利用するのに必要な権利」を意味します。コンピュータのユーザーアカウント、電子メールアカウント、SNSのアカウントは、この意味になります。それぞれ、"user account"、"email account "、"SNS account" と表現することで指している対象が明確になります。クラウドサービスのアカウントであれば、"AWS account" や "Azure account" などと表現すると良いでしょう。

アカウント②

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5と6の用法におけるアカウントは、顧客の意味になります。日本では広告業界B2B企業でよく使われています。英語の辞書を調べてみると、口座の維持管理を伴う定期的な取引やサービス提供を行うビジネス形態を表し、そこから転じて長期的なビジネス上の関係を築く顧客の意味でも使われる言葉になったようです。

: a formal business arrangement providing for regular dealings or services (such as banking, advertising, or store credit) and involving the establishment and maintenance of an account
// a checking account
also : CLIENT, CUSTOMER
// They are one of our most important accounts.
Account Definition & Meaning - Merriam-Webster
(日本語訳)
: 定期的な取引やサービス (銀行、広告、ストアクレジットなど) を提供し、口座の開設や維持を伴う正式なビジネス上の取り決め。

account と訳される他の言葉と区別をつけるためには、"client" や "customer" と書くことができます。ただし、企業によっては法人営業を指してアカウントマネージャやアカウントエグゼクティブのような名前の職種を設けていたり、外資系企業で本社も account という呼び方をしている場合もありますので、英語でもそのまま account とした方が良い場合もあると考えられます。

account と訳される言葉が複数ある場合は区別をつける

今回は英語で account と訳される言葉をいくつか見てきましたが、カタカナのアカウントは別として、口座と勘定科目は日本語では別概念として表現されるために、英語でホモニムになることを意識しづらい言葉でもあります。単語として、口座、勘定科目、アカウントを含む文章は英訳した後に区別がつけられるようになっていることを確認します。文章が分かりにくく、書き手の意図とは異なる解釈をされる可能性がある場合は、必要に応じて修飾語をつけて異なる表現にします。