企業内略語の英訳は難しい。

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企業で使われる略語

どこの企業・団体でも色々な略語を使用することがあると思います。そのような略語は、組織の中では当たり前のように使われているために、人によっては元の言葉が何であったか分からずに使っていることもあります。組織内だけで交わされる会話、メール、チャットなどで使う分には、略語はコミュニケーションをテンポ良く円滑にする効果がありますが、組織外の人が読み手になったり、英語の作成に関わるような場合は注意が必要です。

略語の英訳は難しい

略語は元の正式名称を知らないと正しく英語にできません。その組織や業界を熟知している人が英訳する場合は、略語の意味もふまえて適切な英文にすることもできるかもしれませんが、そうでない場合は正しい英語にならない可能性が高いです。例えば、英語は得意だが組織の業務やシステムをまだよく知らないプロジェクトメンバーや、外部の翻訳サービス事業者が英訳を担当する場合は、略語の意味も分からないと考えた方が良いでしょう。

略語の意味が分からないと、単にその略語自体を間違えて英訳してしまうだけでなく、文章や文書全体の文脈を正しく捉えることができず、他の部分にまで誤訳を派生させてしまう可能性があります。また、あまり深く考えずに "運管システム" を "UNKAN system" のように日本語の読みをそのままあたかも固有名詞のようにローマ字にしてしまっている文書も見たことがあります。もちろん日本語を理解しない読み手には全く伝わりません。

翻訳ツールを使う場合も広く一般的に使われている略語であれば翻訳してくれますが、特定の企業の中だけで使われている略語は正しく英訳されない可能性が高いです。

企業内略語の例

運管・・・運用管理

システムのイベント管理やジョブスケジューリングなどを行う所謂 IT Operations Management (ITOM) のためのシステムを "運管システム" などと呼ぶことがあります。"運用管理システム"の略語だと思います。

しかし、"運管" は、運輸業界では "運行管理" の略であったり、金融業界では "運営管理機関" の略だったりします。翻訳ツールも "運管" だけだと "運行管理" の訳として "transportation" や "transportation control" と英訳するようです。

"運管(システム)" と略さずに "運用管理(システム)"と書いていおけば、"operation management (system)" と翻訳されます。ただ、経営管理論の分野でオペレーションマネジメント (英語: Operations Management) という専門用語があるため、"IT operations management (system)" と英訳すると、意図しているものがより明確になります。

Definition of IT Operations Management (ITOM) Software - Gartner Information Technology Glossary

オペレーション・マネジメント - Wikipedia

プロ計・・・プロジェクト計画(書)

プロジェクトを準備または開始する時に作成する "プロジェクト計画" または "プロジェクト計画書" のことを "プロ計" と略すことがあります。一方、複数のプロジェクトをまとめたプログラムについての計画や計画書を作ることもあります。

"プロ計" だけだと、それがプロジェクト計画なのかプログラム計画なのか、計画自体を指しているのか計画書という文書を指しているのかが分かりません。また、翻訳ツールにかけても、"pro total" (プロの合計?)や "prometer" (スペイン語で約束する?) と、あまり意味の分からない英語に訳されてしまいます。

日本語で "プロジェクト計画(書)" や "プログラム計画(書)" と書くことで、"project plan (document)" や "program plan (document)" と正しく翻訳されます。

テ推・・・テスト推進

ある程度規模の大きなプロジェクトだと、Project Management Office (PMO) 機能のひとつとして、"テスト推進" というテスト計画立案やテスト実行のスケジュール調整などを行うチームを組成することがあります。略して "テ推" と呼ばれたりします。知らなければ何の略だか分からず、正しく英訳することもできません。翻訳ツールも "te-suggestions" (テの提案?)、"testmasters" (テストの達人?)、"te-guesses" (テの推測?)、"analogy" (類推?) などと、あまり意味の分からない英語に訳されてしまうようです。

"テスト推進" と書くことで、"Test Promotion" と訳されるようになります。

アプルID・・・アプリケーションID

システム上でアプリケーション毎につけられる一意の識別子のことを "アプリケーションID" と呼び、さらに "アプルID" と略しているシステムやプロジェクトを見たことがあります。おそらくデータベース上でアプリケーションIDを示すカラム名APL_ID のようになっていて、それを読んだ通称と思われます。

これがテーブル定義書のように APL_ID のカラム名が提示されていて、その意味が文書内で明示されているか類推しやすいような場合はあまり問題ありませんが、カラム名としての文脈から離れて使われる場合は注意が必要になります。

と言いますのは、基幹系のシステムなどでは、アプリケーションID が販売業務の受注・出荷・請求・仕入・在庫や、銀行業務の普通預金・定期預金・当座貸越・住宅ローン・振込・外国送金のように、業務領域を示す識別子としても使われる場合があります。カラム名の文脈を離れて業務領域の文脈で、アプルID を "APL ID" や "APURU ID" と訳してしまうと、英語の読み手はアプリケーションIDのことであると推測するのが難しくなります。日本では、アプリケーションのことをアプリと略しますが、英語圏では application は app と略すので、"APL ID" から推測してもらうこともあまり期待できません。

日本語では略さずに "アプリケーションID" と書いて、"Application ID" の英訳になるようにするのが良いでしょう。

Application software - Wikipedia

アーキ・・・アーキテクチャ/アーキテクト

システムの基本構造や設計思想のことを"アーキテクチャ"と言い、アーキテクチャを作る人やチームのことを"アーキテクト"と言います。この言葉もよく略されがちで、"アーキ"とも言われます。ただし、この略し方の問題として、アーキと言った時に、アーキテクチャの話をしているのか、アーキテクトの話をしているのかが曖昧になります。

これは略語の問題だけではないようで、日本ではシステムの基本構造や設計思想のことを指してアーキテクトと言う人も一定数いるようです。英語圏の人はあまりこの混同はしないようで、たとえるならば、音楽 (ミュージック) のことを指してミュージシャンと言うくらいの違和感があります。

文章の中で、アーキテクチャとアーキテクトを混同しないように略さずに書き、英語も "Architecture" や "Architect" と訳すのが良いと考えます。

英語にする場合は、日本語の文書でも略語を使わない

いくつか具体例を挙げて、日本語の略語が正しい英語に翻訳されないケースと理由を説明しました。企業内略語は特殊なものはどこの会社か特定できてしまうので、今回は割と一般的に使われているものを例に挙げました。

みなさまも、普段使っている略語が組織の外の人にも意味が分かるものか、翻訳ツールにかけても正しく英訳してくれるものか、今一度見直してみてはいかがでしょうか?