英語にするのが難しい日本語① 「連携」、「連携する」

(2022-06-06 追記) ※この記事では「連携」や「連携する」という言葉がなぜ英語に訳しにくいかを説明しています。取り急ぎ「システム連携」「連携システム」「データ連携」「情報連携」「外部連携」「外部システム連携」「他システム連携」「システム間連携」「API連携」「外部連携API」「ファイル連携」「連携ファイル」を英語で何と書けば良いか知りたい方は、以下の記事をご参照ください。

youneedaken.hatenablog.com

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IT業界で使われる日本語には、英語にしにくい単語がいくつかあります。
それらの単語は、単に英語に訳すのが難しいだけではなく、そもそも日本語としての使い方が間違っていたり、単独で使われると意味が曖昧だったりするために、日本語の文章を書くときから使い方に注意をした方が良いものもあります。これから数回に分けて、日本語の使い方が原因で英訳する時に分かりにくくなりがちな単語をご紹介していきたいと思います。

1回目は「連携」です。

国語辞典をひくと、「連携」には次のような意味があります。

れんけい【連携】―する(自サ)
目的を同じくするもの同士が、連絡し協力しあって何かをすること。「―を保つ」
山田忠雄他編, 新明解国語辞典 第八版, 三省堂, 2020.

例文としては、以下のような使い方をします。

  • このプロジェクトは4社が連携して進める。

xtech.nikkei.com

  • 自社システムと外部システムとの連携API を使用する。

Image by Gerd Altmann from Pixabay

ただ、私の周りでは「顧客データを連携する」「欠席したメンバーに議事録を連携する」のように、「一方的にデータや情報などを伝達する」という意味で「連携」という言葉が使われるのを目にしたことがあります。
しかし、私はこのような使い方は、本来の「連携」の意味とは少しかけ離れたIT業界特有の方言ではないかと考えています。

「連携(する)」の英訳としては以下のような言葉がよく使われます。

  • linkage (link): 結合(する)、つながり(つなぐ)
  • cooperation (cooperate): 協力(する)、協調(する)、提携(する)
  • alignment (align): 調整(する)、調節(する)、協力(する)、支援(する)、団結(する)、同盟(する)
  • coordination (coordinate): 調整(する)、一致(させる)
  • connection (connect): つながり(つなぐ)、連結(する)、結合(する)、接続(する)
  • propagation (propagate): 伝播(する)、伝搬(する)

コロンの右側の日本語は、それぞれの英単語についての「連携(する)」を除いた訳語ですが、どれも「一方的に何かを伝える」という意味はありません。そのため、例えば「AシステムからBシステムへのデータ連携」という日本語を"data linkage from A system to B system"と英訳しても、実は日本語で意図した「AシステムからBシステムにデータを渡す」という意味では伝わりません。linkage を cooperation、alignment、coordination に置き変えても同様です。

connection や propagation は、かろうじて伝わるかもしれません。ですが、"data connection" は、「データの接続/つながり」、つまり接点や繋がっている状態という静的な意味になり、「AシステムからBシステムにデータを渡す」という日本語の動的なニュアンスとは少し違います。また、"data propagation" も「データの伝播/伝搬」、つまり DNS (Domain Name System) のホスト名とIPアドレスのレコードのように「データが徐々に複製されて広がっていく」ような意味になり、これも少しニュアンスが違います。

「一方的にデータや情報などを伝達すること」を意味するのであれば、「連携(する)」の代わりに、「転送(する)」、「送信(する)」、「移送(する)」、「伝達(する)」などと書くことで、第三者が翻訳したり翻訳ツールを使ったとしても日本語で意図した内容に近い英語になります。
英語としては、"transfer"、"transmission (transmit)"、"transportation (transport)"、"communication (communicate)"などになります。

Data Linkage よりも Data Transfer の方が通じる。

なお、最初の例に挙げた"data linkage"という言葉自体は英語に存在します。主に統計や医療の分野で使われる言葉で、「同一の人物や対象について、別々のデータソースからの情報を組み合わせて、新しくより豊富なデータセットを作る手法」を意味します。例えば、医療機関と学校がそれぞれ持っているデータを組み合わせて洞察を得るような手法を指します。"record linkage"、"data matching"、"entity resolution"とも言われますが、どれも「データを渡す」というニュアンスとは少し異なります。

What is Data Linkage? - Menzies Institute for Medical Research | University of Tasmania What is Data Linkage? - University of South Australia
Data linkage | Population Data BC
Record linkage - Wikipedia

Data Linkage は、別々のデータソースから新しいデータセットを作る手法。

「~を連携する」が誤用であることの文法的な説明

国語辞典によると、「連携(する)」は自動詞とあります。自動詞とは格助詞の「~を」を使って目的語をとることのない動詞で、「成長(する)」、「反応(する) 」、「影響(する)」などが自動詞の例です。これらの動詞は「草木を成長する」、「刺激を反応する」、「査定を影響する」と書くと何となくおかしいと分かるように「~を」の形で目的語をとることはありません。

「連携(する)」も同じく目的語をとることはない自動詞なので、「データを連携する」という日本語は間違っており、そのままではうまく英語に訳すことはできません。

自動詞の間違った使い方をチェック - PRUV開発室

日本語の自動詞と他動詞の見分け方 | 日本語教師のはま