英語にするのが難しい日本語② 「対応」、「対応する」

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英語にするのが難しい日本語の2回目は「対応」です。
今回もまず国語辞典で意味を調べてみます。

たいおう【対応】<名・自動サ変>
①おたがいに向きあうこと。「―する二辺」
②おたがいにつりあっていること。「このロボットは人間の手に―した動きをする」[類]相応
③相手の動きやまわりのようすを見ながら、それにふさわしい行動をとること。「―がおそい」「―策」
小野正弘他編, 三省堂現代新国語辞典 第六版, 三省堂, 2019.

この内、日本語の文章で「対応(する)」という言葉が③の意味で使われた場合に、英語に訳すと伝わらない表現になることが多いように思います。

例えば、「業務要件をITシステムで実現する」、「業務フローをITシステムで自動化する」などといったことを意図して「システム(で)対応(する)」と表現することがありますが、私の周りではこれを "system correspondence" と英訳しているのを見かけることがあります。"system correspondence" を翻訳ツールで日本語に戻すと「システム対応」になるので、一見正しく訳しているように思えるかもしれませんが、実は英語の読み手にはかなり違和感のある表現になっています。その違和感をあえて日本語にすると、「システム上で相当するもの」のような意味になっています。もしくは、"correspondence" には「文通」や「通信」という意味もあるため、「システムが送信する電子メール」と解釈される可能性もあります。

国語辞典にあった①と②は「物事と対立もしくは相当する関係にある」という静的な関係を表す意味になります。

三角形の対応する辺・・・①

人間の手の動きに対応した動きをするロボットアーム・・・②

消火器を使って火災に対応する・・・③

一方、③は「物事や相手に合わせて何かの動きをする」という動的な振る舞いを表す意味になります。①②と③は、UML (Unified Modeling Language) で言うところのクラス図で表す構造とシーケンス図で表す振る舞いのような意味の違いがあります。

②のロボットアームの例は、動きを伴っているので一見すると動的な振る舞いを表した文のように読めるかもしれませんが、ここではあくまでも人間が掴んだらロボットも掴む、人間が手を放したらロボットも放すという、人間の手とロボットの手の関係を表しています。

③は、火災という出来事に対して、消火するという動的な振る舞いをしている例になります。

英語の"correspondence (correspond)"は、主に前者①②の静的な意味で使われることが多く、後者③の動的な意味ではあまり使われません。後者は、"response (respond)"、"handle"、"address"、"take action"などを使います。

「システム(で)対応(する)」は、「業務要件などを受けて、それに相応しいITシステムの実装をする」という③の用法ですが、では、"system response (respond by system)"、"system handle (handle by system)"、"system address"、"system to take action"と訳せば良いかというと、やはりどれも英語としては違和感のある表現か、全く別の意味となり、日本語で意図している内容は伝わりません。強いて日本語の意図を英語にすると、"fulfill by an IT system"、"implement as a feature in an IT system"のような表現になりますが、"fulfill" についても "implement" についても「対応(する)」を辞書で調べても出てきません。

「対応(する)」は、「物事や相手に合わせて何かの動きをする」という以上に特に意味のない曖昧な言葉ですが、その曖昧であることの便利さゆえに日本語のIT文書ではよく使われます。しかし、ここまで見てきたようにあまりうまく英語にすることはできません。英語にすることが決まっている文章を書くのであれば、「システムに ## 機能を実装する」や「システムで ## 業務を自動化する」のように、なるべく具体的で曖昧さのない表現にします。それぞれ" implement ## feature to the system"、" automate ## business process by the system" のような英語になります。

今回は、「対応(する)」という言葉を英語にする難しさを「システム対応」の例で説明しましたが、他にも「日本語対応」や「レビュー対応」なども同じように英語にするのが難しい表現です。それぞれをあえて英語にすると、"Japanese language support"や"action taken against a review comment"となりますが、元の日本語においても何をするかが具体的ではないので、これだけでは伝わらない可能性が高いです。日本語の文章を書く時から、例えば「画面上のメニューを日本語で表示する」や「## からのレビューコメントに基づいてテストケースを修正した」のように書くと、英語にした時に "Display UI menu in Japanese." や "Updated the test case according to the review comment from ##." のようになります。ここで "Japanese correspondence" や "review correspondence" と訳しても伝わらないのでご注意を!