できるだけ能動態を使い、受動態は控えめに。

英文には能動態 (active tense, active voice)受動態 (passive tense, passive voice)があります。中学校や高校の英語の授業で習うので、覚えている方も多いと思います。
おさらいすると、

  • 能動態は、動作を行うもの (行為者) が主語になり、日本語だと「~する」、「~した」で終わる文です。

Apple created iPhone.
AppleiPhone を作った。(Apple が主語で行為者)

  • 受動態は、動作を受けるもの (被行為者) が主語になり、日本語だと「~される」、「~された」で終わる文です。

iPhone is created by Apple.
iPhoneApple によって作られた。(iPhone が主語で被行為者)

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Google が自社のエンジニア向けに開発し、一般にも公開している Technical Writing Course では、能動態の文は受動態の文より理解しやすいため、技術文書ではできるだけ能動態を使い、受動態は控えめにした方が良いとしています。

Active voice vs. passive voice  |  Technical Writing  |  Google Developers

能動態を使うべき理由として、次のようなものを挙げています。

  • 多くの場合、読み手は受動態を頭の中で能動態に変換してから理解している。
  • 受動態は行為を遠回しに表現するため、書き手の意図を曖昧にする。
  • 受動態は行為者を省略する場合があり、その際に読み手は行為者が誰であるか推測しなければいけない。
  • 一般的に受動態よりも能動態の方が短い文章になる。

すべての文章を能動態だけで作文できるケースは限られるかもしれませんが、同じ内容を能動態と受動態で表現できる場合は、能動態を使った方が書き手の意図が明確になり、読み手にとって分かりやすくなります。

Google Technical Writing Course には、他にもIT技術者にとって参考になることがたくさん書いてありますので、いずれこのブログでも紹介したいと思います。

developers.google.com

また、科学論文では伝統的に客観的な響きを持つ受動態が好まれていたため、学生時代に英語の論文やレポートを書いた経験のある人は、受動態で書く習慣がついているかもしれません。
しかし、最近では能動態の直接的な表現の方が主張や結果が読み手に伝わりやすいことから、能動態の方が望ましいという考え方も現れており、能動態を推奨するジャーナルもあるようです。
IT文書では、客観的な響きよりも分かりやすさの方が重要ですので、その観点からもできるだけ能動態を使い、受動態は控えめにした方が良いと思います。

論文執筆における能動態と受動態の使い方 | エディテージ・インサイト

能動態と受動態を効果的に使うには | エディテージ・インサイト

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私の感覚では、日本のIT技術者が書く英文には、英語圏の人が書く英文よりも受動態が多い印象があります。 その理由を考えていた時に、興味深い論文がありました。

木村郁子, なぜ日本人学生の英作文に受動態表現が多いのか?―学生の英作文からの考察と指導についての提案―, 言語文化論叢, 千葉大学言語教育センター, 2013.
https://www.cphe.chiba-u.jp/ge/activity/archive/pdf/plc07-09.pdf

この論文では、日本人が受動態をよく使う理由として以下のような仮説を挙げています。

(1) 中学、高校での受動態の学習で、形だけの重視や、書き換え練習によって、学生の側に能動態と受動態が等しい意味で交換可能であるような誤解をさせていること。
(2) 日本語の特性から来る主語を抜かして文を作る癖があること。
(3) 日本語の特性から無生物主語を使った能動態の文を作りにくいこと。
(4) 行為者をあげずに状態を表す日本文をそのまま直訳をして英文をつくろうとすること。

日本語の特性に加えて、日本の英語教育の影響を指摘する仮説となっています。
この論文では大学生の英作文に見られる特徴から考察していますが、日本で英語教育を受けて、主に日本語で思考するIT技術者にも当てはまる部分はありそうです。

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