便利な略語

学生時代に英語で論文やレポートを読んだり書いたりしたことのある人は、ラテン語由来の略語を目にしたり使ったりしたことがあると思います。そのような略語はビジネス文書や Institute of Electrical and Electronics Engineers (IEEE) などの技術文書でも用いられるため、適切に用いるとプロフェッショナルらしいIT文書になります。

IEEE Editorial Style Manual - IEEE Author Center Journals

いくつか使い方や注意点を添えて紹介します。

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etc.

日本語における"~など"に相当します。ラテン語et cetera の略で、英語で言うと and other things の意味になります。中学校や高校の英語の授業でも教わるので、知っている人や使っている人は多いと思います。

ただし、英訳の際に日本語の文章にある"~など"をそのままetc.に置き換えてはいけないケースもあります。代表的な注意点を挙げます。

  • etc. は複数のものを列挙する場合に使う
    日本語では単語1つでも"など"をつけることができますが、英語の etc. は必ず複数のものを列挙した後につけます。

  • etc. は列挙されていないものがまだ他にもある場合に使う
    A, B, C, etc. と書いた場合、必ずDやEがあります。DやEがない場合は、etc. は使えません。

  • etc. の前にはカンマ ( , ) が入る
    etc. は複数のものを列挙した後につけるため、etc. の前にはカンマ ( , ) が入ります。et cetera 自体が and other things という意味なので、カンマの前に and は不要です。
    etc. が文末にくる場合は、etc. で終わります。"A, B, C, etc.."のように2重にピリオドをつけたりはしません。
    ただし、etc. が文の途中でくる場合は、"A, B, C, etc., ~"のようにカンマをつけて文章を続けます。

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e.g.

日本語における”例”や"例えば"に相当します。ラテン語exempli gratia の略で、英語で言うと for example の意味になります。

例えば以下のように使います。

Virtual Machine is available in multiple operating systems, e.g. Red Hat, Ubuntu, CentOS.
仮想マシンは、Red HatUbuntuCentOS など複数のオペレーティングシステムを利用できます。

また、カンマの代わりにカッコを使う場合もあります。

Virtual Machine is available in multiple operating systems (e.g. Red Hat, Ubuntu, CentOS).
仮想マシンは、複数のオペレーティングシステムを利用できます (例.Red HatUbuntuCentOS)。

  • ex. は使わない
    日本人が書く英文では、おそらく"example"の略語を意図して ex. を使っているケースをよく見かけますが、英語圏の人は"ex."を"例"の意味では使うことはあまりなく、主要なスタイルガイドにもありません。
    "ex."を略語とする場合も"exercise"つまり"練習問題"という意味で使われます。
    また、"ex"には ex-wife (前妻) や ex-boyfriend (元カレ) のように"前"や"元"という意味もあります。
    "例"は、ex. ではなく、e.g. を使いましょう。

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i.e.

日本語における"すなわち"や"言い換えると"に相当します。ラテン語id est の略で、英語で言うと that isin other words の意味になります。

例えば以下のように使います。

The application is built as a FaaS (i.e. serverless code), so we don't have to manage the underlying infrastructure.
アプリケーションは、FaaS すなわちサーバーレスのコードとして実装されるため、下位の基盤を管理する必要がありません。

使い方を覚えると、英文を短くしたりシンプルにすることができるため、便利な略語です。

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cf.

日本語における"参照"に相当します。ラテン語confer の略で、英語で言うと compare の意味になります。
ただし、英語圏の人も使い方を間違えるような、ちょっと注意が必要な略語です。

I have been using “cf.” wrongly for my entire life – Séamus Sweeney

Friends don’t let friends use “cf.” | Scientist Sees Squirrel

  • cf. は本来は比較のための参照に使う
    ラテン語の"比較する"という言葉からきているように、cf. は論文や書籍の中で、書き手が自分の主張する論点を比較するために、読み手に対して他の文献の参照を促す際に使用します。しかし、ビジネス文書やIT文書などアカデミックな世界の外では、そこから転じて単に出典を示す場合など一般的な参照を促す際にも使われています。
    ただ、後者の用法は厳密には誤用で、スタイルガイドによっては、比較を意図しない参照は、see を使うものとしています。

The Chicago Manual of Style
14.42: "See" and "cf."
Notes are often used to invite readers to consult further resources. When doing so, authors should keep in mind the distinction between see and cf., using cf. only to mean "compare" or "see, by way of comparison."

(筆者翻訳)
注釈は、読者にさらなる資料の参照を促すためによく使用される。その際、著者は seecf. を区別し、"比較せよ"もしくは"比較のために参照せよ"という意味でしか使用してはならない。

  • ref. を使うこともある
    ラテン語ではなく、英語の reference の略語としての ref. が使われることもあります。

英語で論文を執筆する場合は、指定されたスタイルガイドに従いますが、特にそういったものに従う必要のないもう少しカジュアルなIT文書であれば、cf.、ref.、see のどれを使っても伝わります。

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