「受注」と「発注」に相当する英単語はない
流通業や製造業における販売システムや購買システムなどでは、「注文」、「受注」、「発注」といった用語や概念が登場します。これらは、ページ上のラベルとして表示されたり、データベースのテーブル名などになったりします。
「注文」、「受注」、「発注」、それぞれの意味を国語辞典で調べてみます。
注文
ちゅうもん⓪【注文・<註文】―する(自他サ)
㊀<だれニなにヲ―する>品質・数量・形・寸法などを指定して、作らせたり届けさせたりすること。「―を取ってくる/ご―の品/―服③」
㊁<だれニなんだト―する>何かを△させる(してもらう)時に、特に△条件をつける(希望を言う)こと。「―を出す/厳しい―をつける」
―けんちく⑤【―建築】住もうとする人が自分で立てたプランのもとに設計して、建てさせる住宅。⇔建て売り
―とり③【―取(り)】得意先を回って注文を聞く△こと(人)。
―ながれ⑤【―流(れ)】客の注文によって調えた品物が、注文した当人に引き取られないままになっていること。また、その品。
山田忠雄他編, 新明解国語辞典 第八版, 三省堂, 2020.
受注
じゅちゅう⓪【受注・受<註】―する(他サ)
注文を受けること。「―に生産が追いつかない」⇔発注
山田忠雄他編, 新明解国語辞典 第八版, 三省堂, 2020.
発注
はっちゅう⓪【発注・発<註】―する(他サ)
注文を出すこと。⇔発注
山田忠雄他編, 新明解国語辞典 第八版, 三省堂, 2020.
日本語では、「注文」も「受注」も「発注」も名詞の単語として存在しますが、英語では「受注」と「発注」は1つの単語では表現できません。
それぞれの日本語を和英辞書で調べてみると、以下のような英語表現があります。
注文
- order
受注
- acceptance of order
- accepting order
- incoming orders
- intake of orders
- order entry
- order intake
- order receipt
- orders received
発注
- order
- order placement
- placement of order
- placing order
- shipping order
「注文」は、"order" の1語ですが、「受注」や「発注」は、"## order"、"## of order"、"order ##" などと、複数の単語を組み合わせて表現しています。
サンプルデータベースの「受注」と「発注」
システムやプロダクトに登場する「注文」が「受注」と「発注」のどちらか一方だけであれば、シンプルに "order" と訳せます。しかし、サプライチェーンのシステムや、販売と購買の両方を扱うような基幹系システムなどでは、「受注」と「発注」が別の概念として登場し、訳し分けたいようなケースもあります。
英語圏で「受注」と「発注」をどのように区別しているか、Microsoft SQL Server が学習用や検証用に用意しているサンプルデータベースで見てみたいと思います。
ひとつめの AdventureWorks は、架空の大規模多国籍製造企業を想定したサンプルデータベースです。AdventureWorks では、「受注」に相当するテーブルは "sales order"、「発注」に相当するテーブルは "purchase order" から名前付けされています。
AdventureWorks サンプル データベース - SQL Server | Microsoft Learn
ふたつめの Wide World Importers は、ノベルティ商品の輸入と販売を行っている卸売業者を想定したサンプルデータベースです。Wide World Importers では、「受注」に相当するテーブルは "order"、「発注」に相当するテーブルは "purchase order" から名前付けされています。「受注」は、単に "order" となっていますが、Sales スキーマのテーブルなので、"sales order" とも言えます。
Wide World Importers - SQL 用サンプル データ - SQL Server | Microsoft Learn
「受注」や「発注」の2つの意味
サンプルデータベースで用いられていた、"sales order" と "purchase order" は、どちらも最初の和英辞書で調べた英訳には出てきませんでした。
実は、"sales order" と "purchase order" は、「受注」と「発注」の直訳ではありません。先ほど国語辞典で見たように、「受注」と「発注」は「注文を受ける・出す」という「注文に関わる行為」を表し、「注文」そのものではありません。
一方、"sales order" と "purchase order" は、「売上や販売のための注文」と「仕入や購買のための注文」という「注文」そのものを表す言葉になっています。
WideWorldImporters のカタログ文書を見ると、Sales.Orders は「顧客注文の詳細」、Purchase.PurchaseOrders は「仕入先発注書の詳細」と説明されています。
Sales スキーマ
顧客、営業担当者、在庫品目の売上の詳細。
テーブル | 説明 |
---|---|
Orders | 顧客注文の詳細 |
OrderLines | 顧客注文の詳細行 |
購入スキーマ
仕入先の詳細と在庫品目の購入。
テーブル | 説明 |
---|---|
PurchaseOrders | 仕入先発注書の詳細 |
PurchaseOrderLines | 仕入先発注書の詳細ライン |
WideWorldImporters OLTP データベース カタログ - SQL - SQL Server | Microsoft Learn
「受注」と「発注」を名詞として英訳する時のお勧め表現
データベースのテーブル名、データモデルのエンティティ名、クラス図やプログラムのクラス名など、「受注」と「発注」を名詞として簡潔に英訳したいケースがあると思います。
日本語と同じ意味で英訳する場合は、次のような表現ができます。
- 受注: order acceptance、order receipt、order received
- 発注: order placement
もし、「売上や販売のための注文」と「仕入や購買のための注文」という意味に言い換えられるような文脈であれば、次のように表現できます。
- 受注: sales order
- 発注: purchase order